概要
触れたら終わる。だから俺は、棚の上に封印を置いた。
彼氏が亡くなってから、俺の部屋には「触れたら終わるもの」がある。棚のいちばん目に入る場所に置いた金属の箱。中にはメモリカード、絵手紙、指輪――三つの“戻れない証拠”が封じられている。動かさない、開けない、中身を数えない。馬鹿みたいなルールで日常を成立させてきた。だがある夜、地震が来る。落下音、散る音、転がる指輪。封印が意志とは無関係に破れ、俺の記憶はそこで途切れた。翌朝、部屋はきれいで、箱は棚の上に戻っている。けれど右手の切り傷と、濡れた布巾だけが、昨夜“片付けた俺”の存在を告げていた。俺は再び箱に触れ、開ける寸前で手を止める。開いてしまった現実を、もう一度閉じるために。
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