概要
ふたりでいれば、救われると思っていた。
夜になると、咳が村を渡った。
隣の家、向こうの家、また向こう。
戸を閉めても聞こえる。乾いた咳は壁をすり抜けて、布団の中まで入ってくる。
井戸の水が、ある朝だけ白く濁っていた。
誰かが桶を覗き込み、「山の水が変わった」と呟いた。
それから、熱を出す子が増えた。
大人は口数が減り、塩を撒く回数が増えた。
「……まただね」
母が小さく言った。
誰に言ったのでもない声だった。
数日後、山が鳴った。
遠い雷みたいな音。
翌朝、畦が割れて、土がずるりと落ちていた。
川は茶色く泡立ち、流木がやけに多かった。
「山さまが怒ってる」
誰かが言う。
「鎮めないと」
そして、次に出てきたのが雛代の話だった。
それが私にはなんなのかわからなかったけど、村は私に優しくなった。
仕事をしよ
隣の家、向こうの家、また向こう。
戸を閉めても聞こえる。乾いた咳は壁をすり抜けて、布団の中まで入ってくる。
井戸の水が、ある朝だけ白く濁っていた。
誰かが桶を覗き込み、「山の水が変わった」と呟いた。
それから、熱を出す子が増えた。
大人は口数が減り、塩を撒く回数が増えた。
「……まただね」
母が小さく言った。
誰に言ったのでもない声だった。
数日後、山が鳴った。
遠い雷みたいな音。
翌朝、畦が割れて、土がずるりと落ちていた。
川は茶色く泡立ち、流木がやけに多かった。
「山さまが怒ってる」
誰かが言う。
「鎮めないと」
そして、次に出てきたのが雛代の話だった。
それが私にはなんなのかわからなかったけど、村は私に優しくなった。
仕事をしよ