第7話 ドワーフの鍛冶王と、とろける絶対零度の黄金震(税込198円)であったまる。

深夜三時。

聖騎士におでん、魔女に激辛、王女にうどん、そして宮廷料理人にチキン。

もはや私の中で「驚き」という感情は、廃棄シールを剥がす単純作業と同義になりつつあった。


ピンポーン――。


「……おぉい、店主! 早うせんか! ここが『地獄の火傷もたちどころに癒える魔法の氷室』と聞いてきたんじゃ!」


今日の迷い込んだ客は、天井スレスレの巨躯を誇るドワーフだった。

岩のような筋肉を包む分厚い鉄の鎧は、火の粉に焼かれて煤だらけ。燃え盛るような赤い髪と、同じく赤い髭は、無残にもチリチリに焦げている。


「……お客さん、ちょっと落ち着いてください。何があったんです?」

「見てわからんか! 一週間ぶっ通しで伝説級の大剣を打っておってな。炉の前で熱中症だわ、金槌は指に当てるわ、おまけに炭火の上に尻もちをつくわで、全身が灼熱地獄なんじゃ! 氷の魔法をかけてくれぇ!」


ドワーフの鍛冶王、ドルガン・スチールハート。

彼はあまりの熱さと疲労に、足をふらつかせながらカウンターに純度百パーセントの『ミスリルインゴット』をドンと置いた。


「……はぁ、氷ねぇ。でも、これだけ熱を持った体に直接氷を当てたら、素材が割れるのと同じで逆効果ですよ」


私は彼をなだめつつ、スイーツケースへと向かった。

そこで光を浴びていたのは、コンビニスイーツ界の白い悪魔。


『黄金のカスタードがとろけるクレーム・ド・プリン(税込198円)』。

要するに、よくあるカップ入りのプリンだ。


「お客さん、これをどうぞ。氷よりよっぽど効きますよ」

「……な、なんじゃこりゃ。茶色い液体(カラメル)の上に、震える黄色い物体……まるでスライムじゃな。食いもんか?」

「食いもんです。とにかくスプーンですくってみてください」


私は彼に小さなプラスチックのスプーンを握らせた。

ドルガンは半信半疑で、スプーンをプリンの表面に沈める。ぶるん、と震えるその感触に、彼の眉がピクリと動いた。


「なんじゃこの感触……! 岩でもゼリーでもない、例えるならば、赤子のほっぺたを掬うような……? だが、そんなものを今の俺の熱された胃袋が受け付けるか……っ」


ひとくち。彼はそれを恐る恐る口に入れた。


「――――ッッ!!??」


ドルガンの小さな目玉が、限界まで見開かれた。

彼の分厚い唇が震え、そしてドガン!とカウンターを叩いた。


「ば、ばかな! 口の中で何が起きとるんじゃあああ!?」

「どうしました? お口に合いませんでしたか」

「合わないどころか! 熱い熱いと思っておった舌の上で、この黄色い塊が『とろりん』と溶けおった! 溶けると同時に、殺人的な甘さと冷たさが、喉を通って胸の奥のマグマを一瞬でクリアリングしよる……っ!」


彼は慌てて二口目を掬う。今度はカラメル部分も一緒に掬い上げた。


「ぐおおおおっ!! な、なんだこの底に沈んだ苦味! 甘さだけじゃない、ほろ苦い液体が、甘さの余韻を締め上げて、さらに次の一口を欲させる! これは……魔法の連鎖だ! 終わらん! 食う手が止まらんぞぉっ!」


彼の周囲に漂っていた熱気が、まるで嘘のように引いていく。

焦げていた髭の先から、微かな冷気の粒子が立ち上り、ドルガンの赤らんだ肌は、見る間に健康的な血色へと変わっていった。


最後の一口を飲み込んだ時、彼の全身はまるで鍛えたての鋼のように、しっとりとした輝きを放っていた。


「……ふぅ……落ち着いたわい。店主よ、お前さん、いったい何を盛ったんじゃ。岩のようなワシの体が、内側から冷やされて、まるで復活したみたいじゃ」

「ただのプリンですよ。卵と牛乳と砂糖の奇跡です」


「……卵と、砂糖……? そんなシンプルな素材から、これほどの『安らぎの魔法』が生まれようとは。鍛冶も料理も、原料の極意は同じかもしれんな」


満足したドルガンは、カウンターのミスリルインゴットをそのまま押し付け、さらにポケットから『火竜の牙の粉末』まで取り出して置いた。


「これはチップだ! 受け取れ! 次は、ワシの工房の連中全員分、この『とろける奇跡』を山ほど頼む! あと今度は、あの茶色い炭酸の瓶(コーラ)も試させろ!」


午前三時三十三分。

巨体のドワーフは、来た時とは別人のように軽やかで、しかし岩を砕くような足音を響かせながら異世界へ帰っていった。


「……店主、今日のお客さん、すごくいいミスリル置いてったピピ! これでレジの修理ができるピピ!」

「修理ついでに、プリンを冷やす冷蔵ケースの温度も見ておいてくれ。次は十個単位で買いに来そうだ」


私はミスリルをレジの奥にしまいながら、スプーンの跡がついた空のプリン容器をゴミ箱へ捨てた。


明日はどんな「奇跡」が求められるのだろう。

この店は今日も、甘くて冷たくて、とろけるような安らぎを備えて、異世界からの客を待っている。


第七話・完。

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深夜3時の異世界コンビニ 〜絶望の聖騎士にオムライスを出したら、世界を救う伝説の回復術師と間違われました〜 たこ焼きさん @takosu0329

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