【短編】お嬢様が外で作業をしていらっしゃいます。

翠雨

第1話

「あら? いらっしゃいませんね」

 お嬢様の部屋は冷えきっていました。


 その寒い部屋で、リネン類を新しいものに替えていきます。


「あぁ。寒い」


 今日は一段と冷えますが、お嬢様はどこで何をしているのでしょう。


 まぁ、自分の仕事をしながら探せば、問題ありません。


 お嬢様の体には、エマ様という方の魂が入っていらっしゃいます。エマ様はニポンというところで教師として働いていたらしく、自室で何もせずにのんびり過ごすということはなさりません。


 じっとしてるのは苦手なようなのです。


 さて、エマ様のことは気にかけておきながら、リネン類を洗濯室ランドリールームに運びます。


「これ、お願いします」


 あらら? 何をしているのでしょうか?


 ランドリーメイドが、洗濯桶をとても丁寧に洗っています。


「あぁ、そこに置いておいてください」


 いつもなら洗濯桶に石鹸水をためて汚れ物を浸けるのですが。


「お願いしますね」


 彼女は抱えるほどに大きい洗濯桶を必死で洗っています。邪魔はせずに立ち去りましょう。


 ふと顔を上げると、中庭にエマ様がいらっしゃるではありませんか。


 あんなところで何をしていらっしゃるのでしょう。


 また、何か計画されているのでしょうね。


 彼女は子供好きらしく、弟のバサル様が喜ぶイベントを定期的に考えています。


「エマ様。何かお手伝いいたしましょうか?」


 近づいてみると、エマ様は何かちいさなものを拾っていらっしゃいます。


 くるくると縮れている茶色いものです。カリカリに乾燥しているようですが、あれは食材でしょうか?


「あっ、いいところに。お湯を沸かしてほしいんですけど」


 一度乾燥させたものを、お湯で戻して食べるのですね。


「それが入るくらいですね」

「あっ、ガーネさん! たくさん沸かしてください」


 エマ様は、何人分の料理を作るのでしょうか?


 彼女は普段から使用人にも分けてくださいますし、言われたとおりに大鍋で沸かしておきましょう。


 キッチンで火の番をしていると、エマ様が戻っていらっしゃいました。


 やはりあの、得たいの知れないものを持っていらっしゃいます。作業台に器を置くと、カサカサと乾いた音がなりました。


「ちょっと待っててくださいね」


 洗濯室ランドリールームに向かい洗濯桶を持ってくると、その中に水を入れ始めました。


「私も手伝います!」

「半分くらいまでお願いします」


 二人で作業すれば、そんなに大変な作業ではありません。


「バサルを呼んできますね」

「あっ」


 私が行くと言う前に、キッチンを出ていってしまわれました。


 それにしてもこの水は、何に使うのでしょう。


「姉様! 今日は何をするんだ?」


 バサル様が走っていらっしゃいました。それをエマ様が追いかけていらっしゃいます。


「バサルも手伝って」


 エマ様は野菜箱を運んできました。それを洗濯桶の周りに並べています。


 本当に何を始めるのでしょうか?


「ガーネさん、お湯は?」

「もう少しで沸きますね」


「じゃあ、もういいですかね」


 大鍋を持ち上げて……。


 ああ! エマ様! そういう力仕事は、私がやりますのに!


 洗濯桶に少しだけ注ぎ入れました。


 あれ? 全部加えるのではないんですね。


 手を入れてかき混ぜています。その中に、あのカリカリを入れて……。


 あら?


「姉様! なんかいい匂いだぞ! オレンジか!?」

「あとちょっと塩を入れて。ここに足を入れると」


 バサル様を野菜箱に座らせて、裸足になるのを手伝っていらっしゃいます。


 そういうことは、従者にお申し付けください! といっても、エマ様はご自身でされてしまうので、その代わりに私にできることは……。


 きっとタオルが必要ですね。


「タオルを取ってきます」

「ありがとうございます」


 急いで戻ると、エマ様は靴下を脱いでいるところでした。


「ガーネさんもどうぞ」


 ご丁寧に私のための野菜箱も準備されています。


「いいんですか?」

「ガーネも入っていいぞ!」


 バサル様も気前良く、私に勧めてくれます。エマ様はと言えば、身分など気にしていらっしゃらないようなので、一緒に入るのが当たり前だと思っていらっしゃるでしょう。


「では、失礼します」


 足を恐る恐る入れると、とても気持ちがいいです。しばらくすると、全身が温まってきました。


「姉様! これいいな!」

「温まるでしょ~」


「明日もできるか?」


 バサル様は、乾燥オレンジの皮がまだ残っていることを確認したのでしょう。


「これはみんなの分だから、また作っておくね」


 だから、お湯も残してあるのですね。エマ様は当たり前のように、自分と同じものを使用人に分けてくださいます。


「じゃあ、しょうがねぇな」


 バサル様も大変お優しいですね。


 その夜はずっと温かく、ポカポカと感じました。

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【短編】お嬢様が外で作業をしていらっしゃいます。 翠雨 @suiu11

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