第22話 処刑

 処刑執行の日が決まった。

 処刑の前日、カイルは特に許されて監視のもとに体を清め、新しい獄衣に着替えた。水は骨に染みるほど冷たく、石床に落ちる雫の音だけが牢に響いた。一カ月の間、カイルはこの牢に放置されていた。垢だらけの身体はやせ細り、肋骨が皮膚の下に浮いていた。最後の食事にはパンのほかに魚が加えられた。


 手紙を書くことが許された。


『刻一刻と最期の時が迫っている』


 カイルは格子から差し込む薄明りの中で、羽ペンを動かした。乾いた羊皮紙がかすかに鳴り、鉄格子の向こうからは朝の湿った空気が流れ込んでいた。


「何を書きましょうか。」


 子供のようにカイルはアンヘルに尋ねた。


 アンヘルが肩に手を触れてくれた。その熱を感じた。


『今年の冬は特に寒いから、防寒具を忘れないように。』


『リザは子供たちが転んだりしないよう、しっかりと見守るように。』


『子供たちは光と風をめいっぱいに受けて、たくさん勉強するように』


 カイルは夢中で手を動かした。その三行を書き終えると、しっかり書けたな、とアンヘルが褒めてくれた。カイルは子供のように、はい、と頷いた。


 夕闇が迫っていた。死の恐怖に圧し潰されまいと、カイルは大きな声を上げた。


 やがて、闇はゆっくりと薄れ、鳥のかすかな声が遠くで聞こえ始めた。


 夜が白み、処刑の朝が来た。


 晴れていて、風の少ない日だった。あの若い騎士官が目を伏せていた。牢舎の庭には槍と銃を持った兵士が並び、紋章を施された国旗が風に鳴っていた。


 若い騎士は白い紙を取り出して罪状を読み上げた。


 もうすぐすべてが終わる。そう、もうすぐ。


 急に風が強くなった。荒涼とした場所に一本の長い杭が打たれ、直立していた。兵士たちがカイルをその柱に縛り付ける。兵士たちは無言で作業を終えると、別の兵士が薪と藁をカイルの足もとに積み上げた。

「魂の平穏があるように。」

 そう言って兵士が離れ、別の兵士が積み重なった藁と薪に火をつけた。焔が揺れ、煙が立ち上った。


 薪の弾ける音が空に跳ねた。


 黒い煙が喉に絡みつき、息をするたび、自身の焦げた匂いが肺の奥まで入り込む。烈しい熱と煙の中で、御師様、とカイルは声を響かせた。

「御師様。」

 カイルは再び、強く、声を響かせた。


 やがて火勢が強くなると、カイルの叫びは熱と炎に紛れて消えた。


 長い時間をかけて火は鎮まっていった。囚人を失ってなお、杭が弓なりに反って燻っていた。熱が引いた後も、地面はぬるく、空気はまだ焦げた匂いを含んでいた。


 はしたの役人が灰と骨を拾い集め、藁袋に詰める。それを竪穴に放り込むと、役人たちはひとり、またひとりと去っていった。




【完】

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ユナイテッドストーリー2・カノン 海辺_雪(Watabe_Yuki) @Watabe_Yuki

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