お題「手」

水城みつは

お題「手」

「というわけで、白紙のカードを配るから、各々お題の『手』で思いつく単語を何か書いてくれ」


 そう言って、俺は文芸部室で暇そうにしていた四人に何も書かれていないカードと黒マジックを配る。


なお先輩、何が『というわけで』ですか、説明、説明を求めます!」

 いつもの如く突っかかってくるのは一年生の双子の妹の方、葉月はづきだ。

 姉の紅葉もみじはというと、何か考えながらマジックを手に取っている。


「葉月ちゃん、これはいつものアレだよ、小説投稿サイトでお題に沿った投稿をするやつ。ほら、前は直が自分でお題をカードに書き込んでたじゃない、覚えてない?」

「あ、ああ、ありましたね。その時は確かミステリージャンル縛りで投稿してましたね」


 あれ、そうだったかな、そうだった気もする。おっと、ついでにその時の投稿をまとめ直していないのも思い出してしまった。


「ほい、直、書けたぞ。って、これは皆に見せて良いやつ?」


 早速書き込んだちからからカードを受け取る。


「あ、いや、伏せておいて」


「直、結局このカードをどうするわけ?」


 なんのかんのと言いつつも四人とも書き込んだカードを渡してくれるところが優しい。


「まあ、お察しの通り、投稿のお題であって、ブレインストーミング的にアイデアを貰おうと思ったんだけど……」


 受け取ったカードを自分だけが見えるようにめくって考える。


「……うん、TRPGやマダミスみたいな感じのロールプレイで話を練ろうか」


「あ、ちょっと面白そうですね」

「そのカードを元にする感じですか?」


「そうだね。じゃあ――」


―― 君達は剣と魔法のファンタジー世界の冒険者パーティだ。

   今回のクエストでは手柄山の異変の謎を解いて手柄を立てるのが目的となっている。


「ぶふぉっ、ちょっと直、いきなり笑かさないでよ。剣と魔法なのに手柄山って、足柄山のパロディ? それに手柄山で手柄……」


「そんなに笑うな。『手柄』って書いたオレが悪いみたいじゃないか。直よぉ、なんでわざわざギャグみたいにするんだよ! いや、直だから仕方ないか」


「いやいや、仕方ないってなんだよ」


「桜先輩、手柄山も兵庫県にあるみたいですよ」

「紅葉、それ重要?」


 手元のスマホをポチポチしていた紅葉からの豆情報はためになるようなならないような。


「……進めて良いかな?」


「おうよ、それでどんな異変が起こってるんだ?」


―― 足柄山の麓の村へと辿り着いた君達は早速聞き込みを始めた。

   村人によるといつの間にか無くなっているものがあるらしい。


「あ、直先輩がGMな雰囲気でいくんですね。ここ、異世界ファンタジーな世界というなら、私の職業は狩人で……足跡を探す魔法を使います!」

「お、いいねえ、じゃあオレは戦士な」


―― 紅葉は足跡を探す魔法を使用した。

   物を盗まれたという村人の家の前に複数の足跡が浮かび上がる。

   それらの足跡は整然と山へと続いていた。


「あからさまに山へ誘導してるわね。ところで、さっきのカードの内容が絡むとして、書いた内容を明かしても良いの?」


 桜から質問が上がる。


「いや、相談なしで。残り三枚が謎に関わって、居るはず、多分」


 残り三枚のカードの内容を思い浮かべる。一応三枚とも使用したネタを思いついたからこそ、この展開である。


「む、それなら、もう犯人分かったかも。直先輩、その足跡のサイズとか形とかは?」


―― 葉月は紅葉の魔法により浮かび上がった足跡を見つめた。

   そこには大小様々な靴跡が残されていた。


「えっ、靴跡ですか? 獣の足跡じゃなくて?」


「そうだね、靴跡だ」


「あっれー、私の書いたのが犯人だと思ったんだけどなぁ」

「ん? 葉月が何書いたかは知らないけど、私は犯人にはならない単語書いた」

「私も犯人にはなりそうにない単語だよ?」


 確かに、葉月が書いたのを犯人とするのが分かりやすいが、そこはちゃんとひねってある。


「犯人は何でも良いから、とりあえず、追いかけようぜ。ほら、直も締め切りが近いから巻きで、って顔してる」


「おい、それはどんな顔だよ。いや、マジで締め切りなので巻きで行くけどさぁ」


 実のところ、冬休みも祝日もないタイミングの今回のお題は実質今日が締切なのだ。


―― 脳筋らしく足跡を追って走り出した力の前に犯人と思しきモンスターが現れた。


「展開早っ! そのモンスターが犯人で良いわけ?」

「モンスターって一匹ですか? 複数の足跡は?」

「決定的な証拠がないとモンスターさんから冤罪で訴えられますよ」


―― モンスターは村人の家から奪った靴を咥えていた。

   鑑定スキルを持っていれば未知のモンスターの情報を取得できます。


「ちょっと、靴を咥えてるの? やっぱり私の書いたのが犯人のモンスターかな。えーと、私は魔術師なので鑑定持ちですってことで、『鑑定』!」


―― 葉月は鑑定を使った。

   未知のモンスターの情報が明らかになります。


:――――――――――――――――:

名称:ハンドレッドハンドハウンド

説明:その頭と尻尾は犬のような獣であり、

   長い胴体には多数の手足が生えている。

   使い古された靴を好む。

:――――――――――――――――:


「いや、なんだよハンドレッドハンドハウンドって。お前らカードになんて書いたんだ?」


「『ハンド』よ『ハンド』、ひねりも何もないけど」


「『ハンドレッド』です。ほら、ハンドってはいってるし」

「『ハウンド』です。えーと、ハンドってはいってるよね?」


 ハンドレッドも微妙だが、ハウンドはありなのか?

 ちなみに、ハウンドは猟犬という意味があったはず。


「えーと、まあ、ともかく、どうする?」


 下校時間も近くなったので巻きでいきます、巻きです。


「とりま、殴ろう。攻撃は力なり」


―― モンスターに追いついた脳筋戦士の攻撃!

   クリティカル!

   モンスターは倒れた。


「よし、お疲れ様です。無事に村人の靴を盗んでいた犯人を倒して異変は解決です。めでたし、めでたし」


「ちょっ、直先輩、雑ぅ。ところで、犬の足跡じゃなかったのはどうしてですか?」


 葉月が口を尖らせて訊いてきた。

 

「ん、このモンスターは靴を集めて自分でも履いているんだ。なので、足跡は色々な靴の跡になってるってわけ」


「む、納得できるだけに悔しい……」


「ねえ、直、このモンスターって足が複数であって、手が複数じゃないんじゃ?」


 くっ、桜が痛いところを突いてくる。


「ほら、犬は『お手』をするから手で良いだろ。それに、足だとムカデになってしまう」

「ムカデ? ああ、確かに百本の足だと百足むかでになるわね」


 まあ、お題用の小説は大喜利みたいなものだから許してもらおう。


「そう言えば先輩、ムカデは英語でセンチピードですけど、ラテン語で百の足の意味らしいです。面白いですね」


「あ、うん、今回のお題は『手』なんだけど、豆情報ありがとう。ところで、この話のカテゴリー、ミステリーは駄目かな?」


「流石に駄目じゃないか?」

「ですよねー」

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お題「手」 水城みつは @mituha

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