第二話「404エラー 魔法って思ってたのと違うんだけど」

 美少女が二人。

 普通の主人公なら、諸手を挙げて喜ぶ光景だ。

 だが俺にとっては違う。こいつらは歩く黒歴史だ。

 2026年の過ち。体裁を整えるためだけにAIで生成した、『設定』だけの存在。


 理由は単純だった。

 キャラが薄いと読者に飽きられる。個性が強ければ愛される。当時の俺はそう考えた。


 問題は、今の俺が読者じゃないってことだ。

 俺は『観測者』になっちまった。


「あんたの情けない募集の張り紙を見たけど、まあ安心して! あの文章を書いたのがあんたなら、仲間に入れてあげる」


 は?

 今、さらっとディスられたか?


「……まあ、書いたのは俺だが……え、それだけ?」

「完璧よ!」


 聞く耳なしかよ。

 彼女はバッと大仰なポーズを決める。

 周囲の風が収束し、杖へと吸い込まれていく。魔力吸収か? それとも触媒か?

 どちらにせよ、素人じゃない。


「俺は……」

「大丈夫ですか?」


 フユネが顔を覗き込んでくる。


「いや……うん。花摘みのクエストだ。報酬はパン二個。どうだ、乗るか?」

「えーっ、つまんない! 私の魔法なら花ごと全部吹き飛ばしちゃうわよ!」


 頬を膨らませて駄々をこねる。癇癪持ちか。

 だが、金には勝てないらしい。


「でもまあ、お金は必要だし……いいわよ! やってあげる!」

「うむ」


 ユミヅキが頷く。


「退屈で、動かず、訓練にもならず、剣を握る時間すら無駄になるが……」

「が?」

「悪くはない。普通はヒキガエル退治とかだ。新鮮だな」


 こいつら、事態を悪化させる気満々じゃないか?

 だが、選択肢はない。


          ***


 フユネは『ヴェンタラス』の女神を崇める街、ヴェンタリスの出身だという。

 箱入り娘生活に嫌気が差して飛び出したらしい。

 通ってきた道の名は『キャンディ街道』。

 蟻の災厄(パンデミック)が通り過ぎ、その跡が偶然にも完璧な舗装路になったという、あの道だ。


 一方、ユミヅキは寡黙だ。

 だが故郷は重要だ。『通貨としてのパン』の生産地。世界に四つしかない製造都市の一つ。


 ふと、疑問が浮かぶ。

 彼女が大事に袋に入れているそのパン。普通のパンと何が違う?

 どうやって真贋を検証するんだ?

 硬くなったり、カビが生えたりしたら価値は暴落するのか?


「ねえ、コモリ」


 町長の家へ向かう途中、不意にフユネが口を開いた。


「何がきっかけで、私たちと組もうと思ったの?」


 少し考える。

 嘘をついてまで仲良くするタイプじゃない。TRPGでも誠実プレイを貫いてきた。今さら変えるつもりもない。


「腹が減って死にそうだ。そのパンが完璧に見えた」

「それだけ? 変な奴」


 前を歩くユミヅキが同意する。

「急な襲撃に備える」とか言って先頭を歩いているが、真昼間で人通りも多い。

「念のため」と言ったきり、無言だ。


 ……。


 長い徒歩移動の末、町長の家に到着した。

 屋敷というよりは、湖畔の小屋だ。それでも、この村で一番マシな建物だろう。


 川のほとりには『ソリドロンの花』。

 光と水を吸って蒸気を吐く。料理の熱源として使われる草だ。

 こんな設定、俺が入れた覚えはないんだが。


「自然状態では蒸気を出さない。だが金属を近づけると分泌を始め、無限に使える」


 ユミヅキが解説する。妙に詳しい。


「革とパンの村で?」

「花は希少だ。ピザに使うために王都へ輸出される」

「ピザ?」

「王都から来たと思ってたんだがな。なぜか『勇者』を名乗る連中はいつもここに来て……手ぶらで帰っていく。お前もそうすると思ったが、違うらしい」


 じっと見つめてくる。値踏みする目だ。

 以前にも勇者はいたのか。たぶん、家に帰る執念が足りなかったんだろう。


「違うな。お前は逃げ出すような顔をしていない」


 王都のことや、自称勇者たちのことをもっと聞こうとした。

 ふと横を見る。フユネがいない。

 見回すと、川に入って足を水に浸していた。


「フユネ……おい、さっさと行くぞ。寒いのに、なんで水に入ってんだ?」

「んん?」


 その時、ドスンと足元が揺れた。

 地鳴りだ。


「敵襲!」


 フユネが湖から飛び出し、杖を構える。真剣な顔だ。

 俺も振り返り――認識した。


 熊だ。

 刃物のような爪を持つ、白いグリズリー。しかも速い。

 俺は即座にユミヅキの背後に隠れた。


「ただのクマじゃないか、コモリ。なんで大騒ぎする?」

「ここの誰よりデカいだろ!」


 俺は小屋の中に滑り込んだ。

 そして、開け放たれた窓の下に身を潜める。

 情けない? 知ったことか。あんな化け物、俺には無理だ。

 それに、彼女たちならやれる。


「ユミヅキちゃん、私に任せて!」


 フユネのローブが舞い上がる。


「任せる」


 ユミヅキは切り株に腰を下ろし、空を見上げた。

 本気か……? これが日常なのか?


 フユネの杖から光が溢れる。


「さあ、覚悟なさいクマさん! シタガキ最強の風使いを前にしたことを後悔させてあげる!」


 詠唱か?


「来なさい、真昼の私を涼しくしてくれるそよ風よ! その特徴的な嵐を引き連れて! ああ、そして何より、私の心を穏やかにし、頭をスッキリさせる新鮮な空気を運んできて!」

「『嵐の槍(テンペストラー)』!」


 長えよ!

 青い風が収束し、巨大な槍となって放たれる。

 直撃コースだ。


 だが、熊は槍を爪で掴み、軌道を逸らそうとした。

 避ければいいだろ。

 いや、熊に理屈は通じないか。


「グオオオオオオオオッ!」


 咆哮。

 だが無駄だ。槍は熊を貫いた。


「敵性体、撃破完了!」


 フユネがポーズを決める。

 背後で爆発音。森が揺れる。衝撃波はギリギリ届かなかった。


「涼しい風をありがとな」

「どういたしまして!」


 俺は小屋から這い出し、ボロ雑巾になった熊を見た。

 馬鹿げている。俺はこんなものに怯えていたのか?

 いや、俺には魔法も剣もない。これでいいんだ。


「あれが……風魔法か?」

「その通り! 圧縮した風に魔力をブーストさせたの! 我が家の十の秘儀の一つよ!」

「十個もあるのか?」

「九つは攻撃用。一つは洗濯乾燥用。冬場に便利なのよ」

「一番恐ろしいな」


 ユミヅキは熊を無視して、花を切り取り始めた。

 繊細な手つきだ。

 俺も腹を括るしかない。これが俺のパーティーだ。パンのためだ。


「暴発はしない」


 不意にユミヅキが言った。


「フユネは騒がしいが、無鉄砲ではない」

「ちょっと! 悪口?」

「事実だ。暴発するなら、私たちは死んでる」


 慰めになってない。


「で、これは……問題にならないのか?」


 俺は熊を指差す。


「町長の家の横で死んでるんだぞ? 誰か来るだろ」

「なんで? 今までも平気だったし」

「もし聞かれたら?」

「フユネが『やりました』と言うだけだ」

「誇りを持ってね!」

「……その後、怒られて終わりだ」


 俺は顔を覆った。

 設計ミスだけじゃない。この世界、倫理観もバグってる。

 ああ、全部俺のせいだ。うん。


「わかった……」


 俺は汗を拭った。


「俺は心臓発作で死にかけた。お前らは退屈で死にそうだ。さっさと終わらせよう」

「賛成! 次のクマちゃんが出る前にね!」

「そういうこと言うな」

「なんで?」

「俺の運だと、次は空を飛んでくる」


 ユミヅキが一瞬だけ顔を上げた。


「効率的だな」


 間違いなく、そうなる。


---


 依頼を達成した。

 自慢じゃないが、鞄の中には二つのパン。

 上出来だ。うん、間違いない。


「……これで終わり、ね」

「終わりって?」

「パン、手に入ったし……」

「それで?」

「その……もう、用済みかなって」

「フユネ。このパンは俺だけのものじゃない。チームの報酬だ。三人で分けるものだろ」


 彼女は少し考え込む素振りを見せた。

 それから窓の外へ視線を逃がし、小さく息を吐く。


「……ただ、言ってみただけ。つまり……ううん。……本当に、このまま一緒に?」

「ああ。俺は臆病だからな」

「何が怖いの?」

「……熊、とか?」


 我ながら苦しい言い訳だ。

 だが、彼女たちを手放したくないのは本音だった。

 結局のところ、彼女たちがいなければ俺はどうなる?

 力もない。魔法もない。今の俺には、彼女たちに縋(すが)るしか生きる術がないのだ。

 ……今のところは、だが。


 フユネの様子がおかしい。

 いや、悪い感じではない。

 さっきまでの騒がしさが嘘のように、今はしおらしく俯いている。


 ――何があっても、俺はそばにいる。

「約束、だよ?」

「ああ。約束だ」


 口にするのは容易いが、果たすのは容易ではない。

 だが、あがいてみるつもりではいた。

 自殺行為? そうかもしれない。だが、これは勇気だ。


     ◇


 ギルドを出て、俺たちは歩き出した。


 何をするかだって?

 拠点探し――マイホームの購入だ。

 手持ちの『パン』さえあれば、それなりの物件が手に入るはずだ。


「あれがいいっ!」

 フユネが声を張り上げる。

「……それ、もう五軒目だぞ」

「だってぇ、どのお家もすっごく可愛いんだもん!」

「俺には全部同じに見えるが」

「それは……っ!」


 彼女はむすっと頬を膨らませ、腕を組んだ。


「コモリさんは、芸術ってものを解(かい)してないわね」

「俺が求めているのは効率だけだ」

「ほら、やっぱり!」

「その通りだからな」


 結局、俺たちは簡素な物件で手を打つことにした。

 いや、「簡素」という言葉では生温いかもしれない。

 街から少し離れた、名もなき小さな森の中にポツンと佇む一軒家。

 モンスターも出なければ、害虫もいない。

 隠れ家としては完璧な立地だ。……ただ一つの点を除けば。


「パン二つだ」

「パン二つだって!?」

「土地は最高なんだ、これ以下には負からねぇぞ!」

「……分かった。パン二つだな」


 俺は震える手で、鞄から二つのパンを取り出した。

 俺の、貴重な……。

 断腸の思いでそれを手渡すと、男は満足げに立ち去っていった。


 こうして正式に、俺たちの家が手に入った。お値段、パン二つ。

 まさか人生で最初の不動産購入の対価が、小麦になろうとは誰が想像しただろうか。


「悪くない」

 それが、俺の口癖になりそうだ。


     ◇


 ユミヅキが外に出た。


「コモリ」

「なんだ?」

「ありがとう」

「……何がだ?」


 彼女は星空を見上げていた。

 手頃な岩に腰を下ろし、その傍らには杖が立てかけられている。


「家をくれたから」

「俺たちが、手に入れたんだ」

「?」

「俺はクエストを見つけただけだ」

「うん。だから、言ってるの」

「だが、お前がいたから達成できた」

「あ……」


 十分ほどして、ユミヅキが戻ってきた。

 その手には一本の縄。引きずられているのは――豚だ。

 俺と同じくらいのサイズだが、重量は遥かに上だろう。

 それを彼女は、まるで空荷のように涼しい顔で引いている。


『食料確保、か』

 と、俺は思った。


 そういえば、今日は一日何も食っていなかったことに気づく……。

 手持ちの唯一の通貨も、寿命は残りわずかだ。

 なんと嘆かわしい。

 腐る金なんて、破綻した経済だ。

 ……俺のせい、なんだが。


 そうして俺たちは、星明かりの下で過ごす。

 夜空を見上げれば、そこには巨大な惑星の影がうっすらと浮かんでいた。


 だが、勘違いするなよ!

 あれは『月』だ! そう説明されたんだから間違いない。

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駄作の傑作 - 強引な聖章 @hiyoriaki123

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