第2話 掌握



 瑠偉は、俺とは違う。

 

 校門を抜け、靴を履き替える間にも「おはよー」と、明るく挨拶を繰り返す。陽キャというものだろうか。


「るいー! おっはよー! 今日も仲良いねぇー?」


「まぁ、ウチがついててあげないとじゃん?」


「さっすがぁー。優しいよねぇー」


「こんなんでも、幼なじみだかんねぇ……しかたなく?」


「しかたなくで出来ることじゃないよー」


 瑠偉は、クラスの女子と談笑する。人気者なのだ。俺とは違って。


 

「おい、どけよ」


 突如ドンッと、背中を押され、つんのめる。たたらを踏んで、なんとか振り返ると……クラスの男子たちがいた。


「チッ……朝っぱらからボケっとしてんなよ、レイサイ」


「……ご、ごめ……」


 反射的に謝りそうになった。その言葉を、瑠偉の大声が遮る。


「ちょっと! なにしてんの!」


「あ? 今日も保護者してんのか? 瑠偉」


「うっさいわ。ウチの鞄、傷付いてたら……アンタ、許さないよ?」


 瑠偉は、一歩前に出て、男子に詰め寄った。


「はっ……別に転んでねーだろ、レイサイ」


 男子たちは、薄ら笑いを浮かべて、そのまま教室に入っていった。


 

「るいって、正義感強いよねー。本間のこと、小学生の時にいじめから助けたんだっけ?」


「あー。まぁ古い話だって。こいつ、ずっとうじうじして、どんくさくってさ。だから、いじめられっ子だったんだよねー」


 悲しいかな、瑠偉とは、もう十年以上の付き合いなのだ。そして、概ね事実でもある。俺はいじめられっ子だった。


「それからずっと助けてるんでしょー。本間って、背も高いし、見た目は悪くないけど……あたしだったら無理だなぁー。彼氏には守ってもらいたい派だしぃ」


「えぇー? 今は女もカッコよく自立する時代っしょー。ウチは全然、守ってやる側でいいかなー」


 瑠偉は、爽やかに笑っていた。よく見る朝の光景だった。


「まぁ……るいはそうかー。壁ドンとかしそうだもんね?」


「ちょ、あはは! そんな古いことしないってー! やめてよーもー」


 そう言いながら、瑠偉は自分の席に着く。そして、ちらりとこちらに目線を送り、顎を軽くしゃくる。


 俺は、いつものように……瑠偉の鞄を、ロッカーにしまう。そして、自分の席に着く。瑠偉は、満足そうに目線を外した。


 ……心臓を掴まれている気分だ。今すぐ帰りたい。


 これが、俺の日常。


      ――そう、思っていた。

 

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