手のひら返し! 〜幼馴染の魔の手を振り切って、"俺の幸せ"を掴むまで~

Resetter

第1話 差し出さされた手



 今でも覚えてる。


「ほらぁ、たーくん! いこー」


 柔らかな陽射しの中。舌っ足らずな声。差し出される、小さな手。


 記憶の中の"俺"は、少し遠慮がちにそれを掴むんだ。


 すると、その小さな女の子は、満面の笑みで走りだして――。


 

 ――ピピピピッ


 アラームが、これでもかと鳴った。自己主張が強すぎる。俺は、微睡みから強引に掴み上げられた。

 


「……またこの夢かぁ」


 最近、よく見る……昔の夢。


 本間忠勝ほんまただかつ、悩める十六歳。生涯唯一の、温かい思い出だ。と、言うほど人生長くはないのだが。



「はぁ……行きたくないけど、準備するか……」


 ……今の俺は、悲しき高校生である。


 意識は上げられてしまったが、気分は下がってしまうのだ。まるで水揚げされた魚のように。


 

 ▽


 

「おっそい」


「……ごめん」


 大きな目を細めて、顎を上げ、見下すように見つめてくる少女。一応、幼馴染の逢沢瑠偉あいざわるい


 「はぁ……。これだからレイサイは使えねぇって言われんだよ」


 ――レイサイ。俺のあだ名だ。


 有名な戦国武将に肖って付けられたという、"忠勝ただかつ"という名前が、チュウショウと呼ばれ、ついにはレイサイとなった。企業規模……らしい。

 上手いこと付けるもんだ。と、思わなくもないが、俺は付けられた本人だ。あまり笑えない。


 とはいえ。"忠勝"は、完全に名前負けだと思う。


 五十回以上の合戦で傷を負わなかった、本多忠勝公。でも、俺、本間忠勝は、外に出れば傷だらけだ。

 こんな名前を付けてくれた父親も、何を考えていたんだか。

 


「おい。ぐずぐずすんなよ」


「いたっ……。ごめん」


 瑠偉の手が、硬く握られ、俺の左頬にめり込んだ。普通に痛い。

 


「ったく。レイサイはウチがいないとホントだめよね」


 ふん、と瑠偉は鼻を鳴らす。


 瑠偉がいないとだめ……か。あの時から、あの夢の続きから……そう、なのかもしれないな。

 


「ほら、早く持てよな。ちゃんと気を遣えっての」


 差し出された手。その手には、可愛らしいデザインの鞄が握られている。

 見栄えだけはいい。ずいぶんと似合っているとは思う。実に瑠偉らしい。

 


「……ごめん。持つよ」


 瑠偉の鞄を受け取り、肩に担いだ。

 毎朝の、俺の役目、日課だ。

 逆らえば、ひどいことにしかならないのだ。だから俺は、逆らわない。


 足取り軽く歩き出す瑠偉の背中を、鞄の重みよりもずしりとした気持ちで、俺は追いかけた。


 

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