第6話 僕のハートは停止寸前大惨事(★ガルム視点)

 マリアンヌ様が突然やってきたという報告を受けて、僕は慌てて城門へ向かった。


 相手は公爵家のご令嬢だ。失礼があっては大問題だ。

 それに何より、怒らせてしまったらと思うと恐ろしい。

 手紙の内容通りに、背骨を折られてしまうかもしれない。


 こうして碌な心の準備も無しに、僕はマリアンヌ様と対面した。



(かっ、可愛い……!)



 僕は驚愕した。

 手紙の勢いと内容から推測して、てっきりゴーレムのような女性なのかと思っていた。


 しかし其処にいたのは、華奢で可憐な美しい公爵家の姫だった。


「アストリア公爵閣下、このたびは面会の許可をありがとうございます。シュタルツ公爵家の娘、マリアンヌでございます」


 礼節を守った彼女の挨拶を受けて、僕の緊張は一気に高まった。

 本来ならば、こちらも丁寧に挨拶を返すべきだ。


 しかし、その前に手紙が返せていなかったことを謝罪すべきだろうか。

 いやでも、物理的に返事が間に合わないタイミングではあったし。

 それにしても可愛いな、マリアンヌ様。


 ――僕は突然の情報過多に、完全に思考が追いつかなくなった。


「まだ手紙の返事もできていなかったが」


 その結果、ぼそぼそとそんな言葉を呟いてしまった。

 最悪だ。

 何だか言い訳がましいし、嫌な奴だと思われたんじゃないだろうか。


 だが、マリアンヌ様は気にした素振りは無く、会話を続けてくれた。


「ええ、存じておりますわ。でも、私、待つのは苦手ですの」


「ここまでは遠かっただろう。一体、どうやって」


「あらあら、うふふ。森の中を馬を走らせれば、そんなのすぐですわ」


「……あの魔物の巣になっている森を抜けて来たのか?」


 マリアンヌ様の優しさと寛大さに安堵していたのだが、続く言葉に僕は硬直した。


 彼女が馬で走り抜けてきたという森は、獰猛な魔物が多く棲みついており、アストリアの戦士ですら滅多に近づかない場所だ。

 そこをマリアンヌ様は、苦もなく通過してきたのだという。


「はい。そして、アストリア公爵閣下に贈り物がございます」


 どこか誇らしげに言う彼女に、僕は嫌な予感がした。

 従者の女性が恭しく取り出した黒い箱を、じっと凝視する。


 背を伝う冷や汗を感じつつ、ゆっくりと開けられる蓋の中身とご対面した。


「道中で私が仕留めた、ドラゴンの首でございます――」



「………………」



 僕は何とか悲鳴を耐えた。

 気絶しそうになったのも耐えた。


 しかし駄目だ。

 可憐で可愛いご令嬢だと思ったけど、やっぱり駄目だ。


 ――怖い。怖すぎる。

 どうして気軽に、道中のついで感覚でドラゴンを退治しているの?


「シュタルツ公爵令嬢、その、この首は」


「あら、どうか気軽にマリアンヌとお呼びくださいな」


「……マリアンヌ様、ひとまず今日は」


 僕が何とか言葉を選んで、丁重に失礼なく彼女にお引き取り願おうと試みていると、背後からどよめきの声が響いた。


「凄いじゃないですか、これ、ブラックノックドラゴンですか!?」

「もしや、ガルム様が討伐されたんですか?」

「すげー!!」


 それは訓練帰りの、アストリア領の新兵たちだった。

 無邪気に目をきらきらと輝かせて、黒い箱のドラゴンを見つめている。


「いや、これは俺ではなく」


「私が倒しましたわ!」


 ここぞとばかりに、マリアンヌ様が胸を張って主張した。

 

「まさか、こんな華奢な女性がドラゴンを!?」

「貴女様はもしや、名のある武人ですか?」


 わっ、と沸き立つ新兵たちに、マリアンヌ様は優雅に微笑んだ。


「いえいえ、そんな、私はただ――将来、アストリア公爵閣下の妻になる女ですわ」


「なんと、ガルム様、いつの間にこんな綺麗な女性を」

「おまけに武も優れているなんて、素晴らしい御方だ」

「また婚約破棄されたという噂は嘘だったんですね!」



(……????)



 どうしよう、おかしいな。

 僕の意思と無関係に、僕の婚約話が進んでいく。


 助けを求めるように背後に控えていたルーカスへ視線を送ると、彼はにこにこ笑っていた。


「良いではありませんか。もう、このまま婚約なさってはどうですか? 私もドラゴン討伐のお話、聞きたいですし」


 そうだった。彼もまた、生粋のアストリア戦士だった。

 一番頼りになるはずの従者に裏切られて途方に暮れていた僕の腕を、マリアンヌ様が掴む。


「ぬわっ!?」


「うふふ、これから宜しくお願いしますわね――アストリア公爵閣下」


「俺は、こんなむさくるしい見た目だ。貴女にはもっと他に」


「あら、野性味があって素敵ですわ。好みのタイプです」


「ぐぬうっ」


「ひとまず、このお城を案内して頂けませんか? とても興味がありますの!」


「……良いだろう」



 こうして僕は、彼女の城への滞在をなし崩し的に許可することになってしまった。


 一体、どうしてこうなった。

 心中でそう叫びつつ、僕は彼女と仲良く城の中へと向かっていくのだった。


◆ ◆ ◆


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8回婚約破棄された筋肉令嬢は、辺境の魔熊公爵に嫁ぎたい~魔熊公爵は実は気弱な好青年?関係ねえ、嫁入りじゃ!~ 霧原いと @kirihara_ito

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