第5話 貴方のハートを狙い撃ち大作戦
思い立ったが吉日ということで、私は早速、リリアンを連れてアストリア家を訪れた。
街道を進めば10日以上はかかる道のりだろう。
しかし、馬で森を突っ切ったので予定通り3日で到着することが出来た。
手紙もたくさん出していたのだが、返事を待ちきれなかった。
『やられる前に、やれ』が我が家の信条である。
アストリア領は辺境ながらも、非常に賑わって活気にあふれていた。
街の雰囲気も明るく、人々は笑い合い、武器店がとても多い。
実に素晴らしい。
この結婚、是非とも成立させなければならない。
私は馬を城下の厩舎へ預けた。
最低限の荷物だけ携えて、リリアンと共にアストリア公爵の住まう城へ向かう。
街の最奥にあるその居城は、頑丈な石が積まれた厚い城壁に囲まれていた。
装飾は少なく、防衛機能を重んじた建物のようである。
私は努めて柔らかく微笑みながら、屈強な門番へと声をかけた。
「突然のご訪問すみません。どうしても、アストリア公爵閣下とお会いしたくて」
第一印象が大切だと考え、身なりにはかなり気を配った。
相手は武家一門ということで鎧でも着こんで行こうかと悩んだが、討ち入りと勘違いされても困る。
ここは無難に、清楚で美しいワンピースドレスを選択した。
派手過ぎず品の良いデザインの衣服を纏って、私の可憐な見た目を全面に押し出していく作戦だ。
シュタルツ家の娘という身分を証明してみせると、門番は慌てて屋敷内へ連絡を繋いでくれた。
そしてほどなくして、「魔熊公爵」その人が姿を現す。
「……!」
私は彼の登場に、思わず息を飲んだ。
アストリア公爵は噂通りの大男で、いかつい顔立ちに鋭い眼光を備えていた。
その眼差しは、冷酷に突然の来訪者である私の本質を見抜こうとしているかのようだ。
「魔熊公爵」と称されるに相応しく、彼の見た目は獰猛な熊を連想させる。
長い黒髪は癖っ毛なのか乱雑に跳ねて、動物の毛皮を彷彿とさせた。
彼の纏う白いシャツは、隆々とした筋肉ではち切れそうだった。
首も、腕も、胸板も、脚も、規格外の太さだ。
これほどの巨体は我がシュタルツ領でも、滅多にお目にかかれない。
その上に羽織った金色の家紋の刺繍の入った黒いジャケットが、彼の威厳をより引き立てる。
(相手にとって不足なしだわ!)
私は心の中で、気合を入れ直した。
確かに並の貴族令嬢であれば、アストリア公爵の迫力に圧倒されて逃げ帰りたくなるというのも理解できる。
しかし、このマリアンヌ・シュタルツを見くびらないで頂きたい。
今まで越えてきた死線の数は、大抵の相手には負けはしないのだ。
「アストリア公爵閣下、このたびは面会の許可をありがとうございます。シュタルツ公爵家の娘、マリアンヌでございます」
私は優雅に微笑み、美しい姿勢で浅いカーテシ―を捧げた。
「まだ手紙の返事もできていなかったが」
ぼそりと呟くアストリア公爵の声は低く、凄みを感じる。
その迫力に負けないように、私はにっこりと笑みを浮かべた。
「ええ、存じておりますわ。でも、私、待つのは苦手ですの」
「ここまでは遠かっただろう。一体、どうやって」
「あらあら、うふふ。森の中を馬を走らせれば、そんなのすぐですわ」
「……あの魔物の巣になっている森を抜けて来たのか?」
アストリア公爵の瞳が、僅かに見開かれた。
それを好意的な反応と解釈し、私は心の中で喜んだ。
きっと彼は、私が今までの貴族令嬢とは違うと思い始めているはず。
――ならば、ここで一気に畳みかけて、勝負を決めるわ。
私がアストリア領でも十分に生きていける強さを持っていることを見せるのよ!
「はい。そして、アストリア公爵閣下に贈り物がございます」
私がリリアンに合図すると、彼女は大きな黒い箱を取り出した。
相手方の許可をとってから、その蓋をゆっくりと開く。
「道中で私が仕留めた、ドラゴンの首でございます――」
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