第5話 アオイくんの死

 警察から解放されたのは、夜も更けてからだった。

 わたしは、とぼとぼと駅のホームを歩いた。


 アオイくんの右手が偽物であることを、警察でも訴えた。だけど、警察はそれを信じてくれなかった。

 正義の味方が警察だと思っていたから、正直落ち込んだ。正しいのは、わたしの方なのに。

 悔しい。アオイくんを助けられなかったことも、警察に信じてもらえなかったことも。


 知らず、涙が浮かぶ。

 その時、バッグの中からアオイくんがわたしを呼んだ。

 そっとアオイくんを取り出す。前から歩いて来たカップルが、ぎょっとした顔でわたしにスマホを向けた。


 これがアオイくんよ! アオイくんの本物の右手なの!

 写真に撮って、SNSに流して!


 カップルに頼み込むと、彼らは頷いて走り去った。

 その背を見送るわたしの涙を、アオイくんが拭いてくれる。

 なんて優しいアオイくん。わたしの好きになった人は、あまりにも優しい。だから搾取されてしまう。

 わたしが、救わなければ。


 電車が通過することを知らせるベルが鳴る。

 わたしのほおをなでるアオイくん。その優しさに浸っていて、後ろから走って来る足音に注意を払うことが出来なかった。

 どんっという衝撃に、わたしはどうとホームに倒れた。そのわたしの手から、アオイくんの右手が飛んだ。


「アオイくんッ!」


 アオイくんの右手がホームから下に落ちて行く。手を伸ばしたわたしの身体を誰かがつかんだ。

 アオイくんを助けさせないために、わたしの邪魔をしているのだ。

 警笛。そして、巨大な鉄の塊が駅を疾走して去って行く。


「アオイくんっ! 離して人殺し!」


 暴れると、あっさり手は離れた。ホームから線路を覗き込む。

 お願い、無事でいて。その願いも虚しく、線路上にいたのはアオイくんの右手の死骸だった。

 真っ二つに裂けた皮膚、千切れた指。


「いやぁぁぁぁぁ‼︎」


 線路に飛び降りた。誰かの叫び声がする。いや、もしかしたらわたしの声かもしれない。

 とにかく、アオイくんの右手をかき集める。病院、病院に行かなくては。

 とにかくすぐに行けば、くっ付くかもしれない。そうしたら、きっと生き返る。

 わたしが、わたしだけがアオイくんを助けられる。わたしが助けなければ。

 アオイくん、わたしのアオイくん‼︎


   * * *

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