第4話 アオイくんのために
舞台上のアオイくんを金の力でもぎ取った最前列で見上げながら、わたしはそっとバッグの中に左手を滑り込ませた。
そこには、アオイくんの右手。指と指を絡ませ、わたしは確信を得た。
舞台上のアオイくんは、偽物の右手を付けさせられている。それはもう間違いなかった。
本物の右手はわたしのところにいるのだから。
最初は、この手はシリコン製のハンドモデル人形だと思っていた。
だけど、日が経つにつれそれが間違いだったことにわたしは気がついた。
舞台上のアオイくんを見てから、その確信は揺るぎないものになった。
舞台上のアオイくんの右手は、どう見ても不自然だ。
彼の指は、あんな太くはない。偽物を付けるにしたって、あれはないだろうと思うとアオイくんが不憫でたまらなかった。
もしかして、右手を画材屋さんに置いて行ったのは、わたしに助けを求めていたのかもしれない。
アオイくんのSOSを、わたしはちゃんと受け取れた。
アオイくんが、舞台上からわたしを見つめている。その形のいい眉が下がり、その美しい顔が曇った。
助けてくれ、俺にはなすべきことがある。どうか俺を自由にしてくれないか!
ああ、その悲しみにわたしの胸は張り裂けた。
わたしが、わたしが助けてあげるアオイくん!
素早く立ち上がったわたしに、アオイくんが驚きの表情を浮かべた。
大丈夫よ、アオイくんのためならなにも怖くないわ!
斜め前に設置してあった階段を駆け上がる。
「危ないから座って!」
「だめ、今あなたを救わなきゃ!」
客席に見えるよう、傾斜のついた舞台上でバランスを崩したわたしを、アオイくんが抱き止めた。
全身が歓喜で包まれる。ああ、アオイくん!
アオイくんの右手をつかんだ。引っ張る。彼の身体が揺らいだ。
共演者たちが駆け寄って来る。身体が後ろに引っ張られた。
「アオイくんっ!」
引き離される。切ない表情をしたアオイくんが離れて行く。
「いや、アオイくんッ‼︎ 離して‼︎ アオイくんはわたしを待っているの‼︎」
わたしの力が足りなかった。引っ張るだけではなかなか抜けないのかもしれない。
切り落とせば良かった、次はナイフを持って来なくては。
アオイくんの本物の右手を彼に付けなければ。そうして、右手だけじゃなく、身体ごとわたしの元で過ごすのだ。
彼もそう望んでいる‼︎
「離して! 離しなさいよ! あんたたちがアオイくんを脅して偽物の右手を付けさせているのね⁉︎」
「は⁉︎ なんだこれヤベぇ! おい、警察!」
「アオイくんはわたしに助けを求めてるの! 警察に逮捕されなきゃいけないのはあんたたちよ!」
極悪人たちをふり切ろうと暴れると、三人男が飛びかかって来た。わたしは舞台上に倒れ、押さえつけられる。
アオイくん! ここまで来たのに、わたしが非力なばっかりに。
ああ、アオイくん。わたしのアオイくん。わたし諦めないわ。
* * *
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