第2話


 帰投したシモンは隅の方で焚き火を起こして温まっていた男に糧食のトレイを差し出し、配給でもらった自分の分の煙草もそのまま男に差し出した。

 横に腰掛け、無言で糧食をかきこんでいると、やはり同じように食事をとっていた男がぽつりと漏らす。

「俺はお前の殺しを恐れる心根は好ましいと思っている。人として尊い物を残していると思ってるんだ。だから外しても自分を恥じて気まずそうにするな」

「ここは戦場で……自分が相手を撃つことを躊躇えば自分が相手に殺されると分かってはいるんです」

「充分だ。お前が人を殺さずに戦争が終わるといいな」

 男の手がシモンの頭を撫でる。

 泣きそうになるのを誤魔化すのに、シモンは糧食の最後の一口をかきこんだ。


 その翌日、司令部は膠着状態の北部戦線を終結させるべく、大規模攻勢を打ち出した。


 元々無茶な作戦だった。

 眼下で友軍が崩れていく。

 指揮した隊を潰走させたことがあったが、今こうやって離れて俯瞰していると何が悪いのかよく分かる。

 シモンは目立たぬ様にカモフラージュした布を被って歯噛みした。

 父の華々しく散れ、という言葉が脳裏をよぎった。

 おそらく勝てば儲け物、負けたら犠牲を喧伝し、離れつつある人心を掌握するという心持ちなのだろう。

 あまりにも愚かしいが、軍隊という組織にいればそれに逆らうことなど出来はしない。

「敵の頭を取りに行く。お前はここに隠れてろ」

「無茶だ!」

「どのみち死ぬなら、大将首を狙った方がマシだろう?」

 迷いのない顔を見たシモンは歯噛みして、男に言った。

「ついていくからな! 弾運びがいるんだろ! 魔弾の射手様!」


 敵の後衛を狙えるところまで二人は移動し、いつもの如くシモンは男に弾を渡した。

 敵の数は減らしても大将首が取れないまま、シモンの弾が減っていく。

 そして一発、二発と狙撃を続けるたびにこちらの場所が割れていく。

 弾が尽きたと思った瞬間、男の頭から何かが吹き出して頭を低くしたシモンの顔を濡らした。

「……いや、だ」

 その暖かいものは弾一発で事きれた男の命の残滓だった。

 魔弾の射手と言われた男でも、敵の大将を取ることができなかった。

 そして、相手の銃弾一つで何かを言い残すこともなくあっさりと死んでしまった。

「うっ……うあ……」

 無我夢中で男の死体を寄せて、その手から銃を取り上げ、物入れの中から男が最期まで使わなかった銃弾を装填した。

 弾は一発。

 悪魔の望む場所を穿つ特別な一撃。

 祈りを込めたその一撃は、敵司令官の眉間を過たずに撃ち抜き、北部を勝利に導いた。

 戦争の英雄になったシモンは、その生涯で五百を超える命を屠ったという。

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魔弾の射手の最期の銃弾 オリーゼ @olizet

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