Cパート

 現場に着くと私と藤田刑事は車から外に出て辺りを見渡した。ここは山に囲まれた集落だ。数軒の家が建っているだけだ。この辺のどこかに小泉が隠れているのだろう。パトカーからも警官が降りてきた。その中にはあの30半ばの警官もいた。


「2人1組になって辺りを捜索しよう。発見したら連絡してくれ。犯人の小泉はライフル銃の名手だ。くれぐれも慎重に」


 藤田刑事が警官たちに指示を出した。これ以上の被害が出る前に小泉を逮捕しなければならない。私は藤田刑事とともにその周辺を探した。


(誰かに見られている?)


 この場所に来てずっと私はそんな感じがしていた。物陰から誰かがこちらの様子をうかがっているような・・・。すると、


「パーン!」


 といきなり銃声がして藤田刑事が撃たれた。私はすぐの身を低くして拳銃を抜いた。だが撃った小泉がどこにいるかはわからない。藤田刑事は左肩を撃たれてうずくまっていた。


刑事デカさんよ! 俺はおまえたちを狙っている。降参するんだな。そうしないと心臓を撃ち抜くぞ!」


 前方から声が聞こえた。私たち2人はすでにライフル銃で狙われているのだ。周囲には身を隠す場所はない。私たちはどうにもならない状況に陥っていた。


「拳銃を前に投げろ! そうしないと撃つ!」


 そして催促するかのように足元に「パーン!」と撃ってきた。ここは小泉の要求を呑むしかない・・・私は藤田刑事に目配せをした。そして私たちは拳銃を前に投げた。

 すると小泉が姿を現した。近づいて来て私たちの拳銃を拾ってズボンに突っ込んだ。


「おまえたちを人質にして逃げてやる! おや? おまえは俺の仲間を撃った刑事デカだな。おまえは殺してやる!」


 小泉は私にライフル銃を向けた。私はどうすることもできず、死を覚悟してじっと銃口を見つめていた。すると声が聞こえた。


「待て!」


 銃声を聞いて一人の警官が駆けつけたのだ。それはあの30半ばの警官だった。彼はその状況を見てさっと拳銃を抜いて構えた。


「銃を捨てろ! そうしないと撃つ!」


 彼は「パーン!」と上空に威嚇射撃をしてまた構え直した。その顔は怖いほどの険しい表情になっていた。その様子はまるで別人だ。

 だが犯人までの距離はかなりある。その距離では拳銃の弾は当たらないだろう。それがわかっているのか、小泉は余裕綽々でライフル銃をその警官に向けた。


「おまえこそ銃を捨てろ!」


 この距離ではライフル銃の恰好の的だ。それでもその警官は拳銃を構えていた。


(私があんなことを言ったばかりにあの警官は無理をしている。このままでは殺されてしまう!)


 そう思った私はとっさに叫んだ。


「逃げて! 相手はライフル銃よ!」


 だがその警官は逃げようともせず、半身になって拳銃で小泉を狙っている。小泉の方もすでに彼に狙いをつけていた。


「いい度胸だ! 体に風穴を開けてやるぜ!」


 そして「パーン!」と1発の銃声が響き渡った。


(あの警官が撃たれた!)


 私は一瞬、そう思った。だがそこで意外な光景を目にしたのだ。小泉のライフル銃が弾き飛ばされて宙を舞い、そしてカチャンと地面に落ちたのだ。小泉自身は何が起きたのかわからないようだった。


「動くな! 次は体を狙う!」


 その警官は鋭い口調でそう言った。それで小泉はその警官が撃った弾丸がライフルを弾き飛ばしたことを知ったのだ。


「この野郎!」


 小泉はライフルをすぐに拾おうとした。だが手が届く前に「パーン!」という音とともにライフル銃がまた弾き飛ばされた。


「な、なんだ・・・」


 小泉は驚いて目を大きく見開き、体が固まってその動きが止まった。


(今だ!)


 私はその隙を見逃さず、すぐに小泉に飛び掛かった。そして彼の手を取って後ろ手に回して手錠をかけた。


「小泉徹。殺人未遂の現行犯で逮捕します!」


 これでようやく小泉を逮捕することができた。

 その警官はそれを見て、拳銃を慣れた手つきでホルスターに戻した。そしてほっとしたのか、「はあ!」と息を吐いて穏やかな表情に戻っていた。


 ◇


 小泉はパトカーで連行されていった。負傷した藤田刑事は病院に搬送され、私は現場に残った。現場を保全するため、あの警官もその場にいて交通整理などをしている。彼はこの辺りの人と顔見知りらしい。「やあ、おまわりさん」とよく声をかけられていた。地域によく溶け込んでいるようだ。


(そう言えば名前を聞いていなかったな・・・)


 私は今でもあの状況で起きたことが信じられない。一体、あの警官は何者なのか・・・・。すると背後から声をかけられた。


「日比野。ご苦労だった」


 それは荒木警部だった。


「いえ、あそこにいる警官のおかげです。彼が犯人のライフル銃を拳銃で撃ち落としてくれたのです。信じられないほどの腕前でした」


 すると荒木警部はあの警官を見てつぶやいた。


「そうか、彼はここにいたんだな」

「知っているんですか? あの警官のことを?」

「ああ。もちろんだ。彼は『神の手』と呼ばれた男だ」

「神の手・・・ですか?」


 私も聞いたことがあった。確か、10年以上前にピストル競技で何度も優勝を重ねたある選手がそう呼ばれていた。


「そうだ。彼はオリンピック候補にもなった。金メダルも確実だろうと言われていた。だが警官殺しの犯人を射殺し、それが問題になった。そのためオリンピック選手をはく奪され、田舎に飛ばされた。すべてを失って失意のどん底にいたと聞いている。だが今でもその『神の手』は健在のようだな」


 私はあの警官を見た。そんな風にはとても見えない。ただの田舎のおまわりさんだ。だが私が目撃したあの正確な射撃の腕は現実なのだ。


「名前は確か・・・狩枝信二だったな。とにかく彼の射撃の腕は神業だった。『神の手』とはよく言ったものだ・・・」


 荒木警部はそう言ってその場を去っていった。


           終わり


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 作者より

 今回は連載中の「ディーマという名の標的 梅雨の琵琶湖で巻き起こる国王暗殺を巡る攻防戦。それはやがて愛と悲しみの末路に ― 湖上警察外伝」とコラボとさせていただきました。

 『神の手』の異名を取った狩枝が活躍する話です。過去のいきさつも分かると思います。興味のある方はどうかそちらもお読みいただけますように。


 ディーマという名の標的 梅雨の琵琶湖で巻き起こる国王暗殺を巡る攻防戦。それはやがて愛と悲しみの末路に ― 湖上警察外伝

 https://kakuyomu.jp/works/822139840175783888

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神の手 広之新 @hironosin

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