第2話 夢だと思っていた世界
「…………は?」
声にならない声が、喉から漏れた。
灼けつくような日差しが、容赦なく降り注いでいる。
乾いた風が砂を巻き上げ、露出した肌を刺した。
俺は、両手両脚を大の字に縛られ、
地面に据え付けられた木製の処刑具のようなものに固定されていた。
身にまとっているのは、布切れ同然の粗末な衣服。
手首には荒縄が深く食い込み、はっきりと「痛い」と感じる。
(……痛い?)
視線を巡らせる。
どこまで見渡しても、砂、砂、砂――。
「……夢の、続きか?」
喉が異様に渇いていた。
空気は乾ききっていて、呼吸をするたびに肺がひりつく。
肌も、じりじりと焼かれているような感覚がある。
リアルすぎる。
だが、夢にしては出来がいいだけだ――そう自分に言い聞かせた。
そのときだった。
砂丘の向こうから、ひとつの人影が現れる。
茶色の長い三つ編みを揺らし、
ボロ布を体に巻きつけ、石斧を肩に担いだ若い女。
年の頃は、二十代前半くらいだろうか。
日に焼けた肌と、こちらを値踏みするような視線。
「……死にたいなら、そのままにしておくけど?」
淡々とした声。
そう言いながらも、彼女は斧を振り下ろし、
俺の右腕を縛っていた縄を一息で断ち切った。
「ありがとう。助かったよ」
「ここは罪人の地だ。
お前、何をやらかして送られてきた?」
「無実さ。何もしてない」
夢の中だからか、少し格好をつけた言い方になった。
――その瞬間、違和感が走る。
(……ん?)
女の頭上に、プレイヤーネームが見えない。
ステータス表示も、アイコンも、何もない。
こんなNPC、記憶にない。
……まあいいか。
夢なら、多少おかしくても不思議じゃない。
俺は思考の中で、いつもの操作を行う。
すると――
青白く光る、半透明のウィンドウが空中に展開された。
「……レベル60?」
最初から、カンスト。
スキル構成も、完全に見覚えのある戦闘特化型だ。
「俺がやり込んだサーバーのデータだな。
……都合のいい夢だ」
「何を言ってる」
女が、呆れたように眉をひそめる。
「夢なもんか。
ここは地獄だぞ。世の中に不要とされた奴らが捨てられる場所だ」
「そうかもな。でも、出口はある」
俺は、知っている知識をそのまま口にした。
「この封印の指輪を外せれば、な」
女は、わずかに目を細めた。
「……お前、本当に正気か?」
「あっちに行こう。川がある。
砂漠を抜ければ、少しは安全だ」
怪訝そうな表情を浮かべながらも、
女は結局、俺の後をついてきた。
しばらく歩くと、視界の先にわずかな緑が見えてくる。
「気をつけろ。
この辺には罪人どもが――」
女の言葉が終わるより早く、三人の男が姿を現した。
「三人も!? 逃げ――」
女の声を遮るように、俺は石斧を奪い取って前に出る。
「ここはスタート地点だ。
この辺のモブは弱い」
勢いよく踏み込み、斧を振る。
鈍く、重い感触。
ドゴォッ、という音とともに、一人目が崩れ落ちた。
間を置かず、二撃、三撃。
――三人の骸が、砂の上に転がる。
わずか、十五秒。
「……なっ……」
女は、完全に言葉を失っていた。
「夢の中だと、体が軽いな」
返り血を気にすることもなく、俺は小さく笑う。
カンスト。戦闘特化。
どう考えても、無敵の夢だ。
だが――
この世界が“本物の痛み”を伴う現実だと知るのは、
まだ、もう少し先の話になる。
磔から始まる異世界転生 ――カンスト状態の俺は、まだこの世界を“夢”だと思っている おとち @otochi
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