犬
白川津 中々
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犬を飼い始めたのは25の時だった。
働き始めて、金に余裕ができて、それでも何か、毎日が物足りなくて、半ば自棄になってペットショップで買った犬だ。犬種はポメラニアン。物に命名する習慣がなかったから、俺はそのまま犬と呼ぶ事にした。
犬との生活に求めていた効果は得られなかった。毎日散歩もしたし玩具を使って遊んでやったりもしたが、別段充足していく感覚もなく、義務だけで生命を維持してやる毎日。仕事が増えただけのようで、犬など買うのではなかったと後悔だけが増していった。
辟易に反して犬はどんどん俺に懐いていった。横になっていると近くに歩いてきて寄り添い、無防備な姿で寝入るのだ。そのまま処分してやろうかと思った事も何度あった。犬猫が死んだところで世間はそれほど関心をもたない。書類上で手続きをすればそれで終わりだ。実行に移さなかったのは単に面倒だったから。それに尽きる。長い間面倒を見る手間を考えればその場で処理した方がはるかに楽だと分かっていながら、俺は怠惰に先延ばしにしていった。
しかし、それも今日終わった。朝起きてリビングに入っても犬の気配がない。いつもなら卑しく餌をねだりにやってくるのに、足音すら聞こえないのだ。もしやと犬の生活区画を見てみると、力なく横たわっている。触れた瞬間、肉の感触だけが伝わった。
ようやく、肩の荷がおりた気がした。これから散歩に連れていく必要もないし餌もいらない。まとわりつかれる事もなく静かに暮らせる。13年一緒に過ごして得たものは何もなく、最後の最後まで、情も移らなかった。犬を買ってきて飼って、そして死んだ。それだけだった。
犬の死に顔は随分と穏やかった。
最後まで、おめでたい奴だった。
犬 白川津 中々 @taka1212384
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