第5話

「……よかったのか?」


「うん」


 空に戻ったわたしに、ヤコが声を掛けてくれた。棘のない、落ち着いた声だった。


「……やっぱりわたしには、似合わないから」


 そう言って、振り返る。眼下には交番が見えて、そこでヨルちゃんが眠っていた。これできっと無事家に帰れるだろう。


「最後の靄が消えた。これでルマは魔法少女じゃなくなる」


「うん」


「後悔してねえのか?」


 その質問は卑怯だと思う。後悔していないわけがない。叶うなら、ずっとあの姿が良かった。

 でも――


「助けなかった方が、ずっと後悔するよ」


「そうか。そうだな」


 ヤコが晴れた声音で告げると、わたしの目の前でくるりと踊った。


「最後に、これだけは見せねえとな」


 そう言うとわたしの目の前の空間が歪んで裂けて、現れたその先の空間に別の景色が映った。


「あれって……」


 そこは見慣れない部屋だった。お母さんがいて、傍の大きなベッドに寝かされているのは、わたし?


「ルマは川に飛び込んで、それから病院に運ばれた。今も意識不明の重体で、生死を彷徨ってる」


「そう、なんだ」


「驚いたか?」


「……実はあんまり。なんとなく、そうじゃないかなって思ってた」


 そう呟くと、目の前の光景が俄かに慌ただしくなり始めた。母が急いでどこかへと言ったと思ったら、すぐに白衣を着た人たちが部屋へと入ってきた。


「そろそろだな。お別れだぜ」


 呼応するように、わたしの体にも変化が起きる。魔法少女の衣装が、キラキラと雨粒のように溶けていき、それと一緒にわたしの体も、薄くなっていた。


「言っただろ? これは夢だ。死の間際が見せた、一瞬の走馬灯みてえなもんさ」


「ならもっと、たくさん遊べば良かったね」


「消えるのが怖くねえのか?」


「……うん。元々川に飛び込んだのはわたしだし、寧ろこんな良い夢見させてくれて嬉しい。ありがとうね、ヤコ」


 そのお礼が予想外だったみたいで、ヤコはキツネにつままれたような顔をして、それからニヤリと笑う。


「お礼を言うのはコッチだぜ。ありがとうな、ルマ」


 お互いに笑顔を交わして、そこでわたしの意識は完全に途絶えた。









 誰もいなくなった真っ暗な世界。色もない虚ろな空間の中、嬉しそうな声が響いた。


「知ってるか、ルマ。転んだダルマは必ず起き上がるのさ」

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魔法少女 ー カルマ・ダ・ルマ ー 秋草 @AK-193

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