第4話 桜の手紙とオレンジ色の誕生日
まるで春の枝から離れたくないように。教室の桜のポスターはもう撤去され、代わりに黒板の隅に貼られたカレンダーには、赤いペンで丸をつけられた日付の横に、小さな文字が書かれていた——白川雪緒、お誕生日おめでとう。
私はその文字を見つめ、指先でノートの表紙をそっと撫でる。心には微かな波紋が広がる。小さい頃から、誕生日はいつも静かに過ぎてきた。仕事に忙しい両親は、朝に祝福の言葉とプレゼントを残すだけ。私も早くから、和歌を写しながら、一人で誕生日を過ごすのに慣れていた。
陽葵は私のぼんやりとした様子に気づいたのか、腕をそっとつつく。瑠璃色の瞳にはいたずらな光が宿り、「白川さん、最近いつもカレンダーばかり見てるけど、何かいいことあるの?」
私は慌てて頭を下げ、ノートでカレンダーを隠す。声は舞い落ちる桜の花びらのように柔らかい。「い……いいえ、何もないです。」
だが陽葵は諦めない。体を寄せてきて、金色の髪が私の手の甲にそっと触れる。淡い柑橘の香りが漂う。「絶対あるでしょ! 教えてよ、何か秘密?」
私は窮屈そうに答える。「そうか……四月が終わりそうなだけです。」
陽葵は首を傾げて考えた後、突然机をパンと叩いた。私はペンを落としそうになって驚く。「わかった!」彼女は声を低くして耳元に寄り、「誕生日が近いんでしょ?」
ぬくもりのある息が耳に触れ、頬があっという間にあつくなる。私は無意識にうなずいてしまう。
「わーい!」陽葵の瞳は瞬く間に輝き、まるで春の星屑が溢れているようだ。「すごい! 超素敵な誕生日サプライズを準備するね!」
「お手数をかけなくて……」私は慌てて手を振る。「私、もともと誕生日を祝ったことがないんです。」
「そんなわけない!」陽葵は眉をひそめるが、口調は拒否できないほど優しい。「誕生日はすごく大事な日だから、必ず盛大に祝わなきゃ! それに、私が一緒に過ごす初めての誕生日だから、忘れられない思い出を作らなきゃ!」
彼女の真剣な表情を見て、私の心はぬるま湯に浸されたように柔らかくなる。小さい頃から、こんなに熱心に誕生日を祝ってくれる人は誰もいなかった。心の奥に秘めていた温かさへの期待が、この瞬間、そっと芽吹いた。
「じゃ……あなたの言う通りにします。」私はささやくように言い、唇に淡い笑みを浮かべる。
陽葵はすぐに歓声を上げたが、周りのクラスメイトに聞かれないようにすぐに口を覆う。私の隣に寄り添って、小声でつぶやく。「超ロマンチックな誕生日パーティーを計画するね! 場所は図書室の裏の桜の木の下にしよう、私たちが出会った場所だから意味があるよ! ケーキとオレンジ味のサイダー、桜の形のクッキーも準備する! あっ、鈴木さんたちも誘ってくるね!」
彼女の言葉は連珠砲のように飛び出し、瞳には興奮の光が宿っている。手振り足振りで話す彼女の姿を見て、私は思わず笑ってしまう。原来被人放在心上,是这般温暖的滋味。
その後の数日間、陽葵は異常に忙しくなる。授業中には、こっそり下書き用紙に誕生日パーティーの装飾案を描き、桜とひまわりの絵が紙一面に広がる。昼休みには鈴木さんを引っ張って売店に行き、ケーキの味についてわいわい話し合う。放課後には文房具を買うという名目で、こっそり花屋に行き、ピンクの桜の枝を選んでいる。
私は彼女の忙しそうな姿を見て、心は温かくなる一方で、少し心配にもなる。ある時、彼女が机に伏せて居眠りをしているのを見かけた。眼下には薄いクマが浮かんでいて、きっと誕生日パーティーの準備で徹夜したのだろう。
私は静かにカバンから桜模様のハンカチを取り出し、彼女の腕にそっとかける。陽葵は何かを感じたのか、ぼんやりと目を開けて私を見ると、すぐに輝かしい笑顔を見せる。「白川さん、大丈夫だよ! あなたの誕生日になったら、絶対驚かせるから!」
私はうなずき、指で彼女の額の髪をそっと整える。「無理をしすぎないで、ゆっくり休んでね。」
陽葵の頬がほんのりと赤くなり、うなずいてまた目を閉じる。唇には甘い笑みが残っていた。
誕生日の前日、放課後の道で陽葵は突然足を止め、いたずらっぽく私を見つめる。「白川さん、明日は学校に早く来てね! 桜の木の下で待ってるから、遅刻しちゃダメだよ!」
「うん。」私は笑って応える。
「あっそうだ!」陽葵は何かを思い出したように、カバンからオレンジ色の封筒を取り出して渡す。「これはプレゼントの前振りだけど、明日の誕生日まで開けちゃダメだよ!」
私は封筒を受け取り、指先で凹凸のある模様を撫でる。小さなひまわりの柄が印刷されている。「ありがとう。」私は封筒をまるで宝物のように大事そうにカバンに入れる。
陽葵は私のそんな様子を見て、目元を笑い皺にして言う。「明日ね! 白川さん、おやすみ!」
「おやすみ。」私は彼女がはばたくように跳ねながら遠ざかる背中を見送り、心には期待がいっぱいになる。
家に帰ると、私は机に座り、そのオレンジ色の封筒を見つめる。指は何度も封筒に触れたが、結局開けることを我慢した。ノートを開いてペンを紙に落とし、一行を書き記す。「四月二十九日、晴れ。明日は誕生日。星野陽葵がサプライズを準備してくれる。心は桜の花びらのように、ほんのりと暖かい波紋が広がる。」
書き終えて、封筒をノートのそばに置く。窓の外の桜の木を眺めながら、私はだんだん眠りに落ちていった。
翌日の朝、私は早く起きて、一番好きな白いワンピースに着替え、髪には桜の形のヘアクリップをつける。学校への道中、桜の花びらが肩に舞い落ちる。風には淡い花の香りが漂い、空気さえも優しい匂いに包まれている。
図書室の裏の桜の木の下に着くと、私は目を見開いて立ちすくむ。
桜の木の下にはピンクのピクニックマットが敷かれ、その上には大きなイチゴのケーキが置かれている。ケーキには桜の形のろうそくが立てられ、そばにはオレンジ味のサイダーと桜のクッキー、そしてピンクの桜の枝がオレンジ色の花瓶に活けられている。マットの周りには、前回一緒に作った桜の提灯が吊るされていて、提灯には私の好きな和歌が書かれている。風が吹くと提灯がそっと揺れ、ささやかな音が響く。
陽葵は黄色いワンピースを着て桜の木の下に立っていて、手には包装のきれいなプレゼント箱を持っている。私を見つけると瞳が輝き、手を振って笑う。「白川さん、お誕生日おめでとう!」
鈴木さん、田中さん、森山さんも来ていて、手には小さなプレゼントを持って笑いながら言う。「雪緒、お誕生日おめでとう!」
目の前の光景を見て、私の目頭が熱くなる。小さい頃から、こんなサプライズを受けたことも、こんなに多くの人に誕生日を祝ってもらったこともなかった。
「ありがとう……」声が詰まって、うまく言葉が出てこない。
陽葵は早足で私のそばに来て手を引き、ピクニックマットのそばに連れて行く。「早く座って! みんなずっと待ってたよ!」
私はマットに座り、みんなが忙しく動く姿を見て、心は温かい気持ちで満たされる。陽葵がケーキのろうそくに火をつける。炎が彼女の笑顔を照らし、まるで春の暖かい太陽のようだ。
「早く願い事をして!」陽葵は笑って言う。
私は目を閉じて手を合わせ、心の中で静かに願う。これから先の毎年の春が、身の回りの大切な人たちと一緒に桜吹雪を眺め、この優しい友情を守り続けられますように。
目を開けてろうそくを吹き消すと、みんなから歓声が上がる。鈴木さんがケーキを切ってくれて、私の手元に渡してくれる。「食べてみてね、わざわざイチゴ味にしたんだけど、合うかな?」
「うん、ありがとう。」私はケーキを受け取って一口食べる。イチゴの甘みが口の中に広がり、心には幸せな味が満ち溢れる。
陽葵は私の隣に座り、プレゼント箱を渡す。「白川さん、これ私からのプレゼント。気に入ってくれるといいな。」
私は箱を受け取って包装を開ける。中には精装版の『枕草子』が入っていた。表紙の裏には美しい文字で一行が書かれている——「白川雪緒さんへ。毎日が平安で、春がいつまでも続きますように。——星野陽葵」
その文字を見て、私の目頭がさらに熱くなる。『枕草子』は私の一番好きな本で、以前陽葵にたまたま話したことがある。そんなことまで覚えていてくれたなんて。
「ありがとう、陽葵。」私は本を抱きしめ、声が震える。
「どういたしまして!」陽葵は笑って言う。「わざわざ本屋さんに行って探したんだよ、精装版を見つけるのにけっこう時間がかかったんだ。」
田中さんは額縁を渡してくれる。中には文化祭の時の写真が入っていて、私が屋台で和歌を書いている姿に、陽葵が隣に立って目元を笑い皺にしている。「プリントしてきたんだ、思い出にどうぞ。」
森山さんは絵を渡してくれる。桜の木の下に立つ二人の少女が描かれていて、黒髪の少女が本を抱え、金髪の少女が笑顔で彼女を見つめている。横には一行が書かれている——「桜の下で知己に出会い、年年歳歳共に過ごす。」
手の中のプレゼントたちを見て、私の心は感動でいっぱいになる。
みんなで輪になって座り、ケーキを食べたりサイダーを飲んだりしながら、楽しくおしゃべりをする。陽葵が子供時代の逸話を話して、桜を摘もうとして植木鉢に転げ落ちたことを話すと、みんなから大きな笑い声が上がる。鈴木さんがケーキ作りの経験を話して、初めて作った時に塩を砂糖と間違えて、めちゃくちゃ塩辛いケーキになったことを暴露する。田中さんと森山さんは写真とイラストの技について語りながら、時々陽葵の話に合わせて口を挟む。
私はそばに座って、みんなの笑い声や話し声を聞きながら、ずっと唇に淡い笑みを浮かべている。陽光が桜の木の枝葉の隙間から差し込み、私の体に暖かく降り注ぐ。まるで陽葵の笑顔のような温かさだ。
途中、みんながサイダーを買いに行くという名目で、こっそりと立ち去った。桜の木の下には私と陽葵の二人だけが残された。
桜の花びらがピクニックマットに舞い落ち、まるで薄いピンクの雪が降っているようだ。陽葵は私を見つめて、突然カバンからそのオレンジ色の封筒を取り出す。「あっそうだ白川さん、これ前に渡したプレゼントだけど、今なら開けていいよ!」
私は封筒を受け取って慎重に開ける。中には桜の便箋が入っていて、陽葵の少しぐちゃぐちゃな字で自分で作った「和歌」が書かれている。
桜吹雪舞い 君に出会えば
橘の香り袖に纏い 年年共に
君が平安であるように 春の日を負うことなく
稚拙だけど真心がこもったこの和歌を見て、私の涙はついに溢れ出してしまう。陽葵は慌ててティッシュを取り出して涙を拭いてくれる。「どうして泣くの? 書きが悪かった?」
「いいえ、」私は頭を振って笑う。「とても素敵だよ、とても気に入った。」
陽葵は安心して笑い返す。そしてそっと私を抱きしめて、金色の髪が私の頬にそっと触れる。淡い柑橘の香りが漂う。「白川さん、お誕生日おめでとう。これからの毎年の誕生日、私が必ず一緒に過ごすよ。」
「うん。」私は彼女に抱き返し、胸のぬくもりを感じる。心はまるで桜の花で満たされたように暖かい。
私たちは桜の木の下に座り、とても長い間おしゃべりをした。私は子供時代のこと、古典文学にどうやって夢中になったか、孤独な日々にどうやって慣れてきたかを話した。彼女は転校した経験、孤独を恐れていたこと、私に出会った時の嬉しさを話してくれた。
陽光がだんだん西に傾き、桜の花びらはますますもたもたと舞い落ちる。陽葵は私の手を引いて桜の木の幹の前に行き、幹には二つの小さな名前が刻まれている——白川雪緒、星野陽葵。その横には小さなハートとひまわりの絵が刻まれている。
「昨日こっそり刻んだの。」陽葵は少し照れくさそうに言う。「こうすれば、この桜の木が私たちの友情を証明してくれるよ。」
幹の名前を見て、私の心には暖流が湧き上がる。手を伸ばして陽葵の手と重ね、その二つの名前の上に置く。
「陽葵、」私は彼女の瞳を見つめて真剣に言う。「私の人生にあなたが現れてくれて、本当にありがとう。」
陽葵は私を見て、瑠璃色の瞳に涙が浮かぶが、それでもとても輝かしい笑顔を見せる。「こちらこそありがとう、白川さん。あなたがいたから、転校することもそんなに悪いことじゃないと思えたんだ。」
桜の花びらが私たちの手に、幹の名前の上に舞い落ちる。まるで優しい祝福が降り注いでいるようだ。
夕日が沈む頃、私たちはピクニックマットを片付けて、桜の花びらが敷きつめられた道を肩を並べて歩いた。陽葵の手が私の手を握りしめ、掌のぬくもりが、一つの春の日全体を暖めてくれた。
家に帰ると、私は机に座り、陽葵からもらった『枕草子』を本棚の一番目立つ場所に置き、桜の便箋をノートに挟み、みんなからもらったプレゼントを机のそばに並べた。ノートを開いてペンを紙に落とし、今日の出来事を書き記す。
「四月三十日、晴れ。誕生日の日、星野陽葵とクラスメイトたちに祝福された。桜の木の下で、ケーキの甘い香りとオレンジ色の手紙の深い友情が満ち溢れる。木の幹には二人の名前が刻まれ、桜吹雪の中で、ようやく孤独の終わりには、親友がそばにいることを知った。これからの日々、願わくば君と共に春の桜を眺め、優しい言葉を共に記していけますように。」
書き終えて、窓の外の桜の木を眺める。私の唇には、淡くて温かい笑みが浮かんでいた。
この春、桜吹雪が通り全体を覆い尽くした。そして私の人生にも、ついに終わることのない春が訪れたのだ。
白川雪緒の五言ノート 夏目よる (夜) @kiriYuki_01
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