第5話

 調査の結果、凛が指さした場所からは、人の手の骨が出てきた。


 警察の調べによると、あの殺人事件には佐藤も関与していたとのことだった。少女への性的暴行。けれど、男が少女を殺害したときには何の協力もしなかった。男が、何故佐藤の名を出さなかったのかは、聴取中だという。男は、遺体の処理を手伝わなかった佐藤へのささやかな復讐として、少女の右手だけを壁のなかに埋め込んだ。

 最初のリフォームの時に、佐藤はその事実を知る。佐藤は、白骨化したその手を、また壁に塗り込むと、自力で壁紙を張った。

 最初のリフォームの時には、住民には気付かれなかった。佐藤は、その方法でいけると信じて、次のリフォームの際、その部屋の壁だけは自らリフォームしたのだ。奏汰と凛は、そんなこととはつゆ知らず、その家を買ってしまった。

 つまり、少女の手の骨を埋め込んだままの家で、奏汰の家族は生活していたのだった。


 凛は酷く落ち込み、店が開けられなくなった。


 そんな時だった。


 ある日の夜、亮の部屋で子供たち二人が遊んでいる声がする。原因が判明し、壁も直ったから怖くないと思ったのだろうか。子どもたちは単純でいいな、と凛は部屋の外から中の様子を伺っていた。


「えー、亮、それはないわー!」

「フフフ、翔、油断したろ?」

「ほら、次、ナツミちゃんの番だよ」

 ナツミちゃん? こんな夜中に女の子が来てる?

「あーー、嘘!! ナツミちゃん、ヤバっ!」

 あははははは。


 確かに、微かに女の子の声が混じる。

 凛は、そうっとドアを開け、中を覗き込んだ。


 そこには、白い手とカードゲームで遊んでいる息子たちの姿があった。


「えっ?!」


 凛の声で、白い手は消えてしまった。

「もー、お母さん、びっくりしてナツミちゃん、消えちゃったでしょ! せっかく面白くなってたのに!」


 骨を見つけて、墓に戻し、お経を上げてもらって、この子は成仏した筈ではなかったのか……。


「あっちに行く前にね、ちょっとだけ俺らと遊びたかったんだって」

「皆が楽しく遊んでた頃に、ナツミちゃん、遊べなかったんだもんね」


 凛は、胸がいっぱいになって、二人の息子を抱きしめた。


 自分たちの前に現れた不思議な数字、「723」は、「ナツミ」の語呂合わせ。ナツミは、自分がここにいることに気付いて欲しかったのだと思う。

 皆を驚かせたかったわけではなく、ただ、楽しそうな皆の中に、自分も混ざりたかったんだと思う。

 翔と亮はそう言って笑った。



 それから半月ほどすると、白い手は現れなくなった。


 奏汰と凛は、子どもたちを連れて、再びナツミの墓を訪れた。

 花やお菓子などのお供え物をする。

 と、亮が奏汰に耳打ちした。

「いいぞ。お前たちがそれでいいなら」

 奏汰は笑顔でそう言う。

 亮と翔は顔を見合わせ頷くと、お墓にカードゲームを供えた。

「向こうで皆と遊んでね」

 二人は、そう言って手を合わせた。


 すうっとカードゲームは消えていく。


 ふわっと風が吹いて、


「ありがとう……」

 女の子の小さな声がした。




「いらっしゃいませ!」

「ありがとうございました!」

「シフォンケーキセットでございますね」

「マスター、ブレンド一つ!」


 凛の店は、今日も沢山の客で賑わう。

 ここに住み続けることを躊躇ためらった時、子どもたちが言ってくれたのだ。

「なんで? もう出ていく理由なんてないじゃない」

「そうだよ。お母さんの料理やスイーツ、お父さんのコーヒー、気に入って来てくれるお客さんが、せっかくいっぱいできたんだからさ」

「俺たちだって、友達たくさんできたし。な、亮」

「お母さんだって、仲のいい人たくさんできたじゃん」


 そうやって背中を押してくる家族のお陰で、凛はここで夢を叶えられている。



「ナツミちゃん、あのゲームやってるかなあ」

 息子たちは天を仰いだ。



 〈了〉

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古民家の723 緋雪 @hiyuki0714

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