第4話

 翌日、不動産屋に行こうとしていた奏汰は、凛から封筒を受け取った。

 以前、「あの写真」を見てもらった神社からだった。


「結論から申し上げます。これは良いものではありません。

 調べましたところ、その地では殺人事件があったとのこと。そして、犯人は捕まりましたが、まだ片方の手だけが見つかっていないとのことです。その片手が、その家に怨霊として残されている可能性も考えられます。お祓いをする必要は勿論ありますが、それ以前に、その手を本人に返してやりませんと、何度祓っても、また時が経てば同じ現象が繰り返されるものと思われます。

 写真につきましては、スマホの方はデータを完全に消去した後、お祓いを。また送っていただいた物につきましては、お焚き上げをされることをお勧め致します」

 

 親切に、自宅近くでお祓いをしてくれる神社も書いておいてくれた。


「手を本人に返すったって……なぁ?」

 奏汰が困った顔で凛に言う。

「ひょっとして、あの壁の向こうにあるのかしら……」

 凛が怯えた顔で、奏汰を見上げた。

「壁の中に埋め込まれてるってこと? まさかでしょ」

「そうよね……そんなの、リフォームの時にわかるわよね」

 そこまで言って、凛は、思い出した。

「ねえ、あの部屋のリフォーム、DIYって言ってなかった?」

 奏汰が、凛の顔を見る。


「不動産屋に行ってくるよ」

「私も行く!」


 店を臨時休業にして、二人は不動産屋へと向かった。



「中野町の古民家を購入した成瀬なるせと申しますが、佐藤さんはいらっしゃいますか?」 

 不動産屋で、担当者の名前を告げると、不在だと言う。凛は強い口調で、

「それでしたら、ここの代表の方を!」

 と言った。

 慌てたように奥から50代半ばくらいの男性が顔を出した。

「担当者不在で失礼致しました。代表の高橋と申します。私がお話をお伺いします。どうぞこちらへ」

 奏汰と凛は、奥の会議室のような所へ連れて行かれた。


「本日はどういった……」

 高橋が質問する言葉を待たずに、

「事故物件だなんて聞いてないんですけど!」

 凛が言う。せっかく叶った夢が踏み潰されるかもしれないのだ。奏汰には、彼女の怒りが痛いほどわかった。

「事故物件……あの古民家のことですか」

「殺人事件があったって本当ですか?!」

「あの……佐藤から説明は……?」

「全く聞いていません」

「……佐藤からは納得のうえでご契約頂けたと……」

「いいえ、全く聞いてないんです」

「……。暫く……、暫くお待ち下さい」

 高橋は、会議室の内線で、佐藤を至急戻らせるように命じた。

「近くですから、すぐに戻ります。私も話を聞かないといけませんから、一緒に待たせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「ええ。こちらも、いろいろ聞きたいことがありますから」

 奏汰が、凛を落ち着かせるように、彼女の背中を軽く擦りながら言った。


「あの家で殺人事件があったのは事実です」

「……」

 凛は改めて驚いた顔をしている。

「ですが、内側は全てやり直し、庭も土を総入れ替えして、完全にリフォームした形で、売りに出しました。成瀬様が入居される前に住んでおられた方は、それをご承知の上で、破格な値段だからと、お買い上げになりまして……」

「私たちより前に住んでいた人がいたから、事故物件ではなくなったということなんでしょうか?」

 奏汰が尋ねる。

「そんなことはございません。事件についてのこと、その後の弊社の対応のことも含めてご理解頂いてのことだと、佐藤からは報告がありました」

「私たちは何も聞かされていません!!」

 凛が叫ぶように言う。


 そこへ佐藤が戻ってきた。 

「佐藤、成瀬様がお聞きしたいことがあるそうだ」

 と、座るよう促す。

「あの家が事故物件だなんて聞いてません」

 凛が、佐藤を睨みながら言う。

「あっ……あの……その件につきましては、ですね……」

「どういうことか、私も知りたいんだがね」

 高橋も問い詰めた。


 結局のところ、佐藤が自分の成績を上げるためのことだとわかり、奏汰と高橋は溜息をついた。

 しかし、凛だけは納得がいかなかった。

「気になることがあるんです。高橋さんも立ち合いのもと、佐藤さんにうちに来て確かめて欲しいんです」

 凛は、奏汰と一緒に、この不動産屋二人を家のあの部屋に連れて行った。

「この壁を調べてもらいたいんです」

 凛は、佐藤に言う。

「な、何の問題もないかと……」

 が、高橋は、その異変にすぐ気づいた。

「この壁紙は、ご自分で?」

「いいえ。前の人がDIYでリフォームされたと聞いています」

「まさか! そんな中途半端なものをお売りすることはありません!」

 高橋はそう言うと、佐藤に、

「どういうことだ?!」

 と、強い口調で尋ねた。

「いえ……あの……」

 佐藤は口ごもる。


「高橋さん、壁を調べてみてもらえませんか?」

 高橋は、壁を上から撫でたり、叩いたりしていた。

 凛は指差す。

「この辺りだと思います」

 高橋は、念入りにその場所を叩いたり撫でたりしていて、ハッと息を呑んだ。

「調査をお願いできますか? 必要であれば、警察立ち合いのもとで」

 奏汰がそう言うと、高橋は深く頷いた。

「少し不便をおかけしますが、この壁を調査させて頂きます。いいな、佐藤!」

「……」

 佐藤は、俯いて、無言のまま頷いた。

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