君の手

 春になって麗らかな春の陽気が心地よい時期になったが、僕は目に見えて憔悴していた。幸か不幸か僕と君は別のクラスになってしまい、ますます疎遠になった。ゴールデンウイークに君が友達と仲良く遊んでいる姿を見たが、それ以上踏み込むような真似はしなかった。


(きっともう僕に興味が無いのだろう。)


 そんな気持ちを払拭するように君のことを考えそうになったら勉強に集中するようになり成績が驚くほど上がった。家族や友達に驚かれ称賛されたが、僕には全く心に響かなかった。


(どうせなら君に・・・。)


 二度目の夏休みに入ると、君のことを考えるのが辛くて課外活動にも積極的に参加して学校で一目置かれるようになったが、満たされることはなかった。


(もう君との関係を終わらせよう。きっともう僕のことを邪魔にしか思っていないだろうし。)


 夏休みが終わり秋学期が始まってすぐ、放課後にそんな卑屈な思いを抱えて君のいるクラスに向かうが、君はもうクラスにはいなかった。


(もう顔も見たくないのか?なら仕方ない。)


 そう思って帰路につく僕はトボトボと歩いていたら近くのコンビニから君のような姿が出て来るのを見つけた。僕はこれ幸いと走って近付いていった。


「やあ!奇遇だな。こんなところで会うなんて。」


 僕がなるべく自然な形であいさつをするが、彼女は怪しそうに僕を睨みつけていた。


「アンタ、誰?」


 空気が一瞬だけ下がったような気がした。今までにないほど冷たい視線を向けてくる彼女に僕は慌てて釈明した。


「ほ、ほら!今まで連絡とってなかったから怒っているのかもしれないけど、僕だよ!君の恋人!」


「はあ!?そういうの間に合っているからどっか行って。」


 シッシッと小さい黒いシミが点在する手を振って突っ返す冷徹な態度をとっていく彼女に僕は仏の顔をするのをやめて怒鳴った。


「おい!いい加減にしろよ!僕が今までどんな気持ちで過ごしてきたのか君は分かっているのか!」


「ちょっと!大声出すのを止めて!なんなの?気持ち悪い!」


 僕は我慢ならずに彼女の肩に手を触れようとするが、急に視界が90度右に持っていかれた。


「オイ、テメエ!ヒトの女に何してくれとるんじゃ?」


 金髪のおっさんに胸倉をつかまれガンを飛ばされていた。


「あ、あなたは君の・・・。」


「何じゃあ?お前の知り合いか?」


「全然知らない!ねえ?もうどっか行こう!」


 そう言って彼女はおっさんの腕を組んで催促していた。


「わあったよ。オイ!次はただじゃおかねえぞ!」


 おっさんがそう言うと僕を突き飛ばし、彼女を車に乗せてエンジンを吹かした。


「ま、待って。」


 僕がそう言うよりも早く車は発進していってしまった。


「・・・悪夢だ。」


 そう呟くしかなかった。


 その後、僕は絶望しながら町中をふらふらと歩き銀杏並木の続く小川にやってくる。


「こんなにも君に拒絶されるなんて・・・。もうどうしたらいいんだ!」


 僕はどうしようもなく落ち込み銀杏の木にもたれ掛かると、小川に掛けられた橋の上に君の姿があったのに気付く。はっとした僕は君を見つめるが、それと同時に疑問が生じる。


「先程、君とおっさんがどこかにいったはずなのに君が何でこんな所に?」


 僕はそこである結論にたどり着く。僕は急いで君に近付いて声をかける。


「待って!君、僕だよ!」


「あら?久しぶりね。そんなに慌ててどうしたの?」


 君は僕に振り向いて目を丸くし、僕に近付く。そんな君に僕は一言、


「手を見せてくれないか?」


「手を?いいけど。」


 そう言って君は両手を見せてくる。僕はまじまじと君の手を見つめ相貌がほころぶ。


「ない!やっぱりない!君に黒いシミなんてない!」


「急にどうしたのよ?勿論いつも綺麗にしているわよ。また貴方に褒めてもらいたいから。」


 そんないじらしい君の言葉に僕は安堵と後悔の気持ちが溢れてくる。


「ゴメン!僕がバカだった!君のことを疑って本当にすまない!」


 膝をついて首を垂れる僕に君は優しく手を差し伸べる。


「分かってもらえたのなら嬉しいわ。これでまた仲直りね♪」


 僕は君の笑顔を久方ぶりに目にすることができて、つい口を滑らせる。


「今の超絶可愛い笑顔をもう一度、愛しい僕にちょうだ~い。」


パンッ‼


「ふざけないで!・・・さようなら。」


 冬が近づく秋空の下で渇いた音が響き、君は僕の頬に平手打ちをすると嬉しそうに別れの言葉を告げた。踵を返して帰っていった君を見送りながら僕は陶然としながら叩かれた左頬を摩る。


「当然だな。まさか僕が君を裏切るなんて。」


 まさか他人の空似が僕と君の恋の行方を阻むなんて思いもしなかった。さらさらと流れる小川の方に目をやると金色に染まった銀杏の葉が多く流れている中に真っ赤な紅葉が1枚混じっているのを見つける。その様子を写真に収めようとスマホを取り出すと、インカメになっていたのかスクリーンは僕を映している。


 幸せそうなマヌケ面の左頬には赤々とした紅葉のような君の手の跡が残っていた。

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紅葉は君の色 一大路 枝成 @hanma-naga5210purupuru

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