冬の後ろ姿
恋人となった君とはぎこちないながらもデートに誘ったり誘われたり、夜中にメールをし合ったりとカップルらしいことをして楽しんでいた。
そんな年の冬に僕は密かな噂を耳にする。君が良くない大人と密会しているという内容だった。当然、僕は怒りにかられその日のうちに君を問い詰めた。
「聞いたよ。他に男がいるって?」
「・・・。」
君は驚愕したように目を見開きしばらく沈黙した後に、
「なんで・・・なんでそんなこと言うの?」
美しく映える円らな瞳が潤んで輝いた目の端から涙がとめどなく溢れ出していく。
「私のこと信じていないの?私をそんな風に見ていたの?」
「違う!本当のことを知りたいだけだ!」
「じゃあどうして?なんで私のことを疑っているの?私、貴方のことしか見ていない!」
「ならなんでそういう噂が出てくるんだよ!僕に黙って他の男と遊んでいるだろ?」
「違うもん!付き合っているのは貴方だけよ!」
「そんなんじゃ分からないだろ!」
「知らない!知らない!知らない!」
君は僕から逃げるようにその場を去っていった。残された僕は追いかけることもできずモヤモヤした気持ちが晴れないまま、
「チッ!」
その日は無意識に舌打ちしてしまった自分に苛立ちを覚えていった。
それからは君とはどことなく疎遠になっていった。冬休みも近くなってクリスマスに君を誘おうかとスマホを手にしてメールを打ち込んでみたが、それを送ろうとする度に気が引けて結局送らずに消去のアイコンに指を動かしてしまっていた。
(今、君は何をしているのか?何を考えているのか?僕のことも少しは・・・。)
などと女々しく思い悩んでいたことを痛烈に後悔している。思えばこの時が運命の分岐点だったのかもしれない。
年が明けて寒空の下、初詣に出かけた時のことだった。この辺りの毎年参拝客でごった返している名の知れた神社に向けて参道を歩いていると偶然にも、前方で君のような姿があった。艶やかな着物に身を包み、漆塗りの下駄を履いてシャリシャリと進んでいた。見惚れていた僕は咄嗟に彼女に声をかけようと足早になって近づこうとしたが、彼女の肩に誰かの手が置かれた。
「え?」
思わずそんな声が漏れて口を覆った。それは明らかに男性の大きな手であり、その手の持ち主に顔を向けると神社に不釣り合いな金髪を揺らし口髭を伸ばした中年の男性のように思われた。
「やっぱり・・・。君は僕を騙していたんだ。」
耐えられず歩いてきた元の参道を引き返した。参拝客で混雑している中をかき分けて鳥居を抜けると、僕はたまらなく惨めな気分に打ちひしがれていった。
「こんな・・・こんなはずじゃあなかったんだ!」
吐き出す白い息が上り消えていく様を僕は途方もなく見つめていた。
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