久しぶりの再会

「もう、インフルでダウンしたなら連絡くらいくれてもいいじゃん。


 忘れられてるんじゃないかと思った」


「琥珀のことだから、お見舞いに行くとか言い出しかねないし。


 課題もあるんだろ。


 ちゃんと寝てるの?」



 もう。


 口を開けば、私の心配ばっかりなんだから。



「たまには、優弥の心配させてよ。


 優弥と私は他人じゃないんだから。


 一応、恋人なんだし?


 一応、一緒に住むことにはなってるし?


 心配しちゃ、ダメなんだ?」


「ったく。


 一応とか言うなよな。


 俺だって、しんどい間、琥珀が課題で徹夜してないか心配だったんだからな。


 俺の大事な彼女なんだし。


 必死に頑張ってくれたみたいだし。


 これは、また今日の帰りに琥珀の家寄ったときに持って帰るわ。


 今日は季節外れの気温だ、っていうから、持ち歩くと溶けそうだし。


 溶けたの食べて感想言え、っていうのもなかなかに酷だろ?


 琥珀の頑張った成果が無駄になる」


 さりげなく夜まで一緒にいる宣言、しないでほしいな……


 嬉しいけど。


 どうせなら、ストレートに言ってほしかった。


 そういうところ、ズルいよ……



 優弥は、私の持つ紙袋を指差すと、私の手からひょいと持って行った。


 空いた手で、私の頭を軽く撫でた。


「可愛い格好してるのに、崩すと可哀想だしな。


 それに、出かけるのが遅くなる」


 その言葉に、ん?と首を傾げた。


「1日空けておいてくれ、とは言われたけど、出掛けるんだ?」


「行こうぜ。


 紅茶が上手い、いいカフェを知ってる。


 たまにはいいだろ。


 琥珀も課題に缶詰めになるよりは、息抜きになるし。


 どこで作詞作曲のインスピレーションが湧くか分からないしな。


 俺も卒業旅行に向けて、バイト入れて金を貯めなきゃいけないんだ。


 会える頻度少なくなるから、たまにはこういうところでのデートもいいかな、ってな。


 卒業旅行の後は皆バラバラになるから、ホワイトデーも会えるかは確約できないし。


 俺も、琥珀とゆっくり過ごしたい」


 紙袋を冷蔵庫に入れたあと、再び玄関で靴を履き終えた優弥。


「ん。


 両手空いたほうがいいだろ」


 私の肩に下げられたショルダーバッグをさり気なく持ってくれるところは、さすが女性の扱いに慣れている。


 お花があしらわれた白いショートブーツを履き終えると、玄関を出て、指紋で施錠した。



 ショルダーバッグを受け取りながら、後で、優弥の指紋登録もしなくちゃね、と言った。


「一緒に住むんだし、当然でしょ?」


「そういうの、さらっと言うなよな。


 可愛すぎていろいろ保たないわ」


 そう言った優弥の横顔は、真っ赤だった。


 電車を何回か乗り換え、改札を降りる。


 道を何度か曲がり、優弥が私を連れて行きたかったカフェに着いた。


 素朴な下町、という印象しかないが、最近オシャレなお店が増えているらしい。


優梨ゆりから聞いたんだけどな、このお店。


 女のほうが、アンテナ常に張ってるからか、よく美味い店見つけてくるんだよな。


 助かった」


 優梨ゆり、というのは優弥の妹の名前である。


 彼女が私や優弥と同じ高校を目指して受験をし、晴れて合格した。


 オーダーしたカヌレとティラミスのセット、カヌレに合う紅茶を堪能しながら、久しぶりの会話に花を咲かせた。


「優弥に言われるまで、すっかり忘れてたけど。


 もうすぐ3月で、卒業式が目の前で。


 卒業旅行の計画も金沢に決まりそうだし、楽しみ。


 バイト代、使いすぎないようにしないと……


 辞めたバイト先の給料、もうすぐ入ってくるからね。


 ちゃんと旅行代にあてないと」



「琥珀も。


 課題ばっかりに向き合ってないで、たまには俺に連絡しろよ。


 俺、琥珀にとってどういう存在なの?って思うと寂しくなるし」


「じゃあ、気分転換にスポッチャ誘おうかな」


「スポッチャ出禁にはならないでくれよ、頼むから。


 ストラックアウトやらせても、卓球やらせても、ダーツやらせても難なくこなせる彼女って、琥珀くらいだし。


 こういうところでは、男がいいところを見せる場面なのにさ。


 俺の立場も考えてくれよ……


 デキる彼女持つと、大変だ」


「ねぇ、それ褒めてる?」


 久しぶりに会うと、話題は尽きなかった。


 秋山あきやまくんや小野寺おのでらくんといった同級生たちとはたまに会うらしく、いろいろ近況を聞かせてくれた。


 自動車の免許は2人とも取ったようだ。


 レンタカーでも借りて、深月や、美冬を乗せてドライブでも行くのだろうか。


 2人はそれでなくても実家を出て大学から通う。


 その準備もあるのに。


 秋山くんは、彼女の深月が一人暮らしをするから、心配なのだろう。


 そのうち半同棲してそうだ。



 お昼前に行ったのに、もう時計は15時になっていた。


 カフェの雰囲気も良く、カヌレも紅茶も堪能した。


 間違いなく、課題を進めるエネルギーにはなってくれただろう。



 楽しい時間は、あっという間だ。


 お会計はキャッシュレスらしい。


 何と最先端な店だろう。


 チャージがない、と思っていたら、優弥が2人分をQRコード決済で払ってくれた。


「半分、後で払うよ!」


 カフェを出た後の私の言葉に、優弥は私の額を軽く指で弾いた。


「んも、何よ、優弥!」


「いいの。


 大人しく奢られとけ?


 せっかく、課題もある中時間割いてチョコレート手作りしてくれたんだし。


 可愛い服着た琥珀を見れて嬉しいし。


 そのお礼。


 ダメ?」


 そう言われると、大人しく頷くしかなかった。


 可愛い服を選んでもらったのは、決して無駄ではなかったようだ。


 時間のある時に、深月と美冬、椎菜には何か奢るかな。


 今日は、夕方に相原さんが来てくれることになっている。


 それまで、家で久しぶりに甘い時間を過ごしたい気もする。


 そんな気持ちが彼に伝わるといい。


 そっと握った手を、強く握り返された。



 カフェの最寄り駅までの間、その手は握られたままだった。


「外であんま可愛いことするな。


 一応、卒業まで手は出さないように我慢してんの。


 麗眞みたいに、彼女をしょっちゅう家に連れ込んで抱くほどオバケじゃないけど。


 琥珀の気持ちが前向きになったときにちゃんとしたい。


 俺はそう思ってるから。


 我慢するの、結構大変なの。


 俺の努力を水の泡にされるの、ホント勘弁」


「久しぶりに会えたんだし、たまには、と思って。

 相原さんが来るまで、2人でいたい。


 渡したチョコレートも食べてほしいし」


「そうやって、いつも素直に伝えてくれると可愛いんだけどな。


 琥珀のそういうところも好きだけど。


 帰ったら食べる。


 夕飯後のデザートは、琥珀にするかな、

 なーんて」


 今度は、私が顔を真っ赤にする番だった。


 もう、優弥ったら……


 今そんなこと言うなんて、反則もいいところだ。


 私には縁がないと思っていた甘いバレンタインデー。


 今年は優弥と過ごせて良かったな。


 ハッピーバレンタイン。

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Sweet Lovers 櫻葉きぃ @kii_chan

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