チョコ作り
材料は、深月が取ってきていた。
椎菜は、着る機会の少ない制服も汚したら困ると、相原さんにエプロンを借りていた。
相原さん、用意いいなぁ……
皆が手際よく作業を進める中、私は苦戦していた。
フォンダンショコラやブラウニー、チョコサンドクッキーが完成に向かっていくのが羨ましかった。
今は生クリームの湯煎で2度失敗し、3度目の正直で再びチャレンジしたのだった。
生クリームに生チョコを溶かすまでは良かった。
しかし、ボウルの中身を水に変えて混ぜる時間を長くしすぎたようだ。
箱に流し込むときには平らにならず、何だかデコボコになってしまった。
「こんなんでいいのかな……
とっても不安……」
1時間以上は冷やしたのだが、冷やす時間ももっとあったほうが良かったようだ。
切り分けた際、断面がデコボコで、と綺麗な正方形にはとてもならなかった。
そのおかげが、キットに同梱されていた箱には生チョコ1つ分の隙間が出来てしまった。
さすがに、もう作り直す気力はない。
「うぅ……
私、やっぱりこういうの向いてないのかな……」
「まったく、琥珀ったら。
まぁ、気持ちは分かるけどね。
手作り感満載のほうが琥珀らしいよ」
「多少うまくいかなくても、巽くんには気持ち、伝わるはずだよ」
「そうそう!
大事なのは気持ちよ、気持ち。
琥珀が作ったの?って驚く顔が目に浮かぶわ。
大学進んだら私と賢人みたいに同棲するんだし、家事出来るアピールは大事よ」
「ちょ、美冬ったら!
まぁ、今は少し、学生のうちから同棲ってどうなんだろ、ってちょっと迷ってるけど」
「琥珀も!?
私も、さっきまで迷ってたよ」
美冬が!?
しかも、さっきまで、と言っていた。
もう今は吹っ切れたということだろうか。
「さっき、相原さんに話聞いてもらってね。
誰に迷惑かけるわけでもない。
若くて可能性が満ち溢れているからこそ、出来ることがたくさんある。
自分の幸せの為に生きてみるのも、大切。
そこで後悔しても、人生はやり直しがきかないから。
その言葉で、何だか勝手にインターネットのネガティブな情報に振り回されてたのがバカらしくなったのよ」
「相原さんみたいな年上の人のアドバイスは参考になるなぁ。
1人では狭くなりがちな視野を拡げてくれる。
今日、来て良かった!」
皆、いろいろ人知れず悩んでたんだなぁ。
私も、悩んでいないことはない。
社会人ではなくて、まだアルバイトでしかお金を稼げない立場だ。
そんな中で同棲なんて、うまくいくのだろうか。
厳しい音大のプログラムとの両立は、可能なのだろうか。
私も近々、思いの丈を優弥と相原さんが揃うときに話してみることにしよう。
1人だけで悩んでいても、前には進めないのだから。
何かあったらすぐに悩みを打ち明けられるのが、美冬の良いところだ。
そこは、親友の1人として見習いたい。
ラッピングにも、メッセージカードのデコレーションにも、私はとっても苦労した。
何度もリボンをダメにしてしまったが、深月や椎菜は呆れた様子すら見せなかった。
私の親友たちが天使にさえ思えた。
美冬や椎菜が懇切丁寧にアドバイスをくれたので、何とか形になった。
何かを手作りするなんて、人生初めてのことで。
こういう時間も新鮮で、楽しかった。
皆で一緒の時間を過ごしたから、というのも、あるだろうが。
それを除いても、卒業前の思い出に残るひと時だった。
翌日。
優弥に連絡を取ってみたが、なかなか返事が来なかった。
アルバイトやその他で忙しいのだろうか。
せっかく、美冬や深月に、チョコを渡す日の洋服、選んでもらったのに。
「ついてないなぁ」
作ってから少し日が経つので、そろそろ保たなくなる。
渡したチョコが原因で体調を崩しては、元も子もない。
やっとのことで、優弥から返信が来た。
どうやら、インフルエンザで1週間、寝込んでいたらしい。
待ってよ。
そんなことになってたなんて、全然知らなかった。
「連絡出来なくて悪かったな。
課題で忙しい奴に移したら大変だし、許せ。
明日、一度そっち行くわ。
琥珀の家の最寄り駅に着いたら連絡する。
明日は、1日空けといてな。
琥珀不足でどうにかなりそう」
そんなこと、さらっと書くなんて罪な人だ。
チョコ作りの翌日、選んでもらったワンピースをクローゼットから出して、似合うヘアアレンジをSNSで検索してみた。
その日は、なかなか眠れなかった。
久しぶりに優弥に会えるのが、それだけ楽しみすぎるのだ。
朝になっていた。
いつもの冬のように、寒さに起こされることはなかった。
天気予報からは、GW頃の暖かさになるというアナウンサーの声が聞こえてきた。
今日はいい日になりそうだ。
ベージュニットとチュールスカートがドッキングしたワンピースを着て、メイクを施す。
編み込みポニーテールヘアアレンジを終えた頃。
『あと10分で着く。
インターホン鳴らすから、ちゃんと鍵開けてくれよ』
優弥からメッセージが入っていた。
画面に表示される文字は、9:50となっている。
早すぎず遅すぎず、ちょうどいい時間だ。
『了解、気をつけて来てね』
鞄に荷物を詰め終わった頃、インターホンが鳴った。
せっかく来てくれた優弥を待たせるわけにはいかない。
準備はギリギリ終わった。
「久しぶりだな、琥珀」
久しぶりに聞く優弥の声を確認して、鍵を解錠した。
家の玄関の扉が開いた音がする。
丁寧に靴を揃えている優弥の後ろ姿に、育ちの良さを感じる。
紙袋を手に下げて、玄関に向かった。
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