第21話 「ケルト最後の魔法官」第一幕(記憶の欠片2)

同じ頃、ヴィクターはアレックスの体で目を覚ました


(今回は入れ替わっただけか……興味深いな)


「アレックス、今日はいつになく濃い霧だな

 まさにロンドンスモッグだ」


(こいつはアレックスの知人のようだ……話をあわせよう)


「そうだねトーマス、

 肺が焼かれないだけ今は幸せだ

 こうして霧を楽しめる」


「お茶を淹れるよ」


「今日はコーヒーがいいな」


「そうかい、珍しいな」


「なんとなくね」


「それはそうとアレックス、新しい依頼だ」


ヴィクターはアレックスの体で返事をした


「ありがとう」


エレナのアレックス宛の手紙を読みながら

ヴィクターは思った


(エレナ……私に対してそういう感情を持っているのか

 まあ、当然といえば当然か

 コースターさえ見つけることができれば

 すべてが動き出すのにな)


「トーマス、この依頼引き受けるよ」


「そうか、ならこの事務所を引き払わなくていいな

 大家にそう伝えておこう

 コーヒー淹れたぞ……そして私はいつもの紅茶だ」


アレックスの体をかりたヴィクターはトーマスに目をやった


(冷静に考えるとアレックスは

 ヴィクターとして活動している

 五つの欠片も手にしているはず

 まあ、すべてが揃わないと意味がないから

 少し様子見するか、この男から情報を引き出そう)


「ッ! トーマス、そのコースターは?」


「何の冗談だ、テレビの見過ぎか?

 いつも使ってるコースターだぞ」


「ちょっと見せてくれ」


「イヤだ」


「いいから!」


「ダメだ」


「なっ……そのコースターそんなにいいのか?」


「当たり前だ、話したことなかったか?

 なぜか保温がすばらしい

 いろいろ試したがこれにたどり着いた」


「そうなのか、私も試してみたいな」


「コーヒーで?」


「いや、紅茶でだ」


「アレックス、お前も大人になって来たんだな

 そんなことを言うならまず紅茶の歴史から

 話をしないといけない

 覚悟は良いか?」


「ああ、いいとも

 時間はいくらでもある」


(ここであいつらをゆっくりと待つことにしよう

 修道院にある聖杯はいつでもとりに行けるからな

 これぞ英国紳士というものだ……多分)


そしてアレックスの体をかりたヴィクターは

トーマスの退屈な話を聞きながら二人が来るのを待った



一方、ヴィクターの体をかりたアレックスは

エレナに事情を理解してもらうのに苦労していた


「エレナ、信じてくれ入れ替わってしまったんだ」


「信じろって言ったって

 何をどう信じろっていうのよ」


「無理だな……って、お願いエレナ、信じてくれ」


「無理」「お願い」「無理なものは無理」「お願いします」


「日本式のお願いでもだめ?」

「多分ダメ、絶対だめ」


「ヴィクターってこんな風にお願いしてきたことある?」

「ないけど無理」


「わかった」


ヴィクターの体をかりたアレックスは何を思ったのか

本当に土下座し始めた


「コレデ……シンジテチョ……クダサイマセ、コノヤロウ」


「何してんの恥ずかしいでしょ

 わかったから、もうやめて!」


「エレナ、トーマスが危ない

 私の……トーマスの事務所に行こう」


「もう、その顔でアレックスっぽく言うのやめて!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不断野(明)は地獄とからまない 天解 靖(あまかい やす) @AmakaiYasu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ