貴族-3

 国母を返上して宮中から出ることになったミレリアだが、かといって帝国としては空手で放り出すわけにはいかない。返上したとはいえ、元国母なのだ。貴族としての体裁を整える必要があった。


 まずは収入源となる領土を用意する必要がある。官僚がミレリアに故郷の場所を聞くと、ミレリアは地図にあった、かつて自身が住んでいた漁村のあった場所を指さした。かつての漁村は、近くに出来た都市へ吸収されており、その一部となっていた。

 そこで官僚がその都市を持っている領主に話を付けに行く。当然だが最初は難色を示していた。しかし、どこから漏れたか、都市の住民の間で「この都市は国母様の故郷である」という噂が一瞬で広まってしまった。都市の住民が勝手に盛り上がってしまい、すでにミレリアの石像まで建て始める始末。領主としても「まあ、いいか」という感じになってしまい、いくらかの交渉の末に、ミレリアに寄進される運びとなった。


 仕事としては魔術管理機関の管理を任されることになった。というよりは国母時代からミレリアが行っていたことを、そのまま機関としての体裁を整えて、引き続きミレリアが行うという方が実態に即している。

 魔術にはいくつかの禁忌があり、それらの管理を行うための知識を持つものもが、魔術の創始者というべきミレリアの他に居なかったためだ。


 こうして一貴族となったミレリアは、住居は帝都に構えることにはなったが、宮中からは離れることになった。


「なんだか、以前よりも伸び伸びとされているように見えますね」

 帝都のミレリアの家に訪れたレベッカが、住居の二階のベランダのテラスのテーブルで、お茶を飲みながら向かい合っているミレリアに言った。

 ミレリアは言う。

「なにせ宮中には500年も住んでいたからね。体を締め付けていたコルセットを外した気分かしら。」

「500年……」

 レベッカが思わず呟いた。


 ミレリアはベランダのテラスから、周りの風景を見渡す。見渡す限りに石づくりの家が並び、人々が往来して活気がある。500年前は皆が貧しく、余裕がなかった。今は違う。

 これでよかったのだ、もう私が居なくても帝国はやっていける。そうミレリアは確信して、安心した。


 ……そうなのかもしれない。そうでなかったのかもしれない。

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