貴族-2
ミレリアの提案した皇帝制度を中心とした改革案の数々に対して、議会で多くの議論が行われた。妥当であり利害の絡まない案は比較的簡単に採用されたが、難しい案は先送りにされる。やはり最終的に残ったのは皇帝制度の変更であった。
今の皇帝は、初めて獣人で皇帝となったレオポルドだが、彼らとしてはせっかく手にした権力をおいそれとは手放したくない。人間側としても、今は皇帝の座を奪われているとはいえ、基本的には皇帝レースでは有利な立場だ。また何百年も続いた慣習を変えることに関しては、やはり抵抗があった。
議論は過熱していく。とうとうミレリアにもその矛先が向かってきた。
「皇帝の権力が削減されるという事は、相対的には国母様の権威が増大する。それが目的ではないのでしょうか?」
「ミレリア様はかつて専横され、権力を私物化していた、という過去があると聞き及んでおります」
「再び権力を独占する目的がおありで?」
「皇帝の任期を問題にされていますが、国母様は永世でいらっしゃいますな?それでも任期は問題なのでしょうか?」
どれも、それなりに筋の通った指摘ではある。
しかし、ミレリアはこの流れを待っていた。ミレリアは自身の持つ、一度しか切れない最強のカードを切る。
「はい、ですので……私、ミレリアは、国母の称号を返上しようと考えております」
ミレリアは微笑を浮かべて、さわやかに述べた。
議会に衝撃が走った。これは誰も予想していなかった。何しろ200年も国母として君臨してきたミレリアは、彼らにとっては居て当然の存在だったのだ。今までの前提が崩れた彼らは、これからの展開を予想する。特に仲介役であったミレリアが居なくなった状態で、派閥が先鋭化すると、収集が付かなくなってしまう。皆、どこかミレリアの調整に甘えていた部分があったのだ。
堰を切ったように派閥を超えて、各議員が皇帝制度の改革案に乗ってきた。議会の趨勢は決まり、案は皇帝によって調印された。調印を拒んだらどうなるか先が読めなかったし、今から5年の在位は保証されることになったので、妥当だと考えたようだ。
こうしてミレリアの制度改革は、ミレリアの国母返上をもって、無事に成功した。
「あれでよかったのでしょうか?」
レベッカが悲しそうにミレリアに言う。壁に掛けられている「国母」の称号が書かれた表彰状を見て、時々ミレリアがにやついているのを知っているのだ。「国母」という称号は、ミレリアにとっても思い入れがあるのだろうと思っていた。
「いいのよ。前から考えていたことだから」
ミレリアが気にするそぶりもなく答えた。
「そろそろ子どもにも独り立ちしてもらわないとね。それに……昔言われたのよね」
ミレリアが思い出したように、微笑みながら言う。
「あなたは外に出るべきだ、ってね」
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