紀元500年

貴族-1

 500年を生きる魔女ミレリアによって作られた「魔術」を元に、帝国は発展を続ける。魔術によって生活水準が上がり、人々に余裕が出てくる。余裕が出てくることで、帝国外の国にも寛容な政策が取れるようになる。他の国にしてみても、強力な帝国と戦うよりは、その庇護下に入った方が安心だ。また帝国に恭順することにより、自らの国も魔術による恩恵を得られる。帝国は膨張を続けていった。


「そうなると、やはり改革の肝は皇帝制度かな……」

 帝都の宮廷の一角で、一人の女が机に置かれた紙を、その切れ目の長いアーモンド形の目で眺めながら呟く。長身で長足、スリムだが華奢ではない。腰ほどもある漆黒の黒髪が緩やかな三つ編みでまとめられている。彼女の名はミレリア。帝国において「国母」の称号を持つ中興の祖であり、前述した通り500年を生きる帝国の魔女である。かつてはとても勝気な性格であったが、「国母」となってからはだいぶ丸くなった。

「そうですね。とはいえこの改革の内容が、議会ですんなり可決されるとは思えませんが……」

 机の反対側で犬のような顔をした獣人の女が答えた。彼女はの名はレベッカ。ミレリアの協力者の一人だ。世の中に余裕ができ、近年では種族や性別に関わらず活躍する人が増えている。


 帝国が拡大することによって、多くの種族が貴族という形で、議会へ参加するようになってきたのだが、そこで問題が出てきた。既存の人間を中心とした貴族の派閥と、後から参加した他種族の貴族との衝突が増え始めたのである。

 宮廷を中心に「ミレリアの糸」で知られる強い政治力を持ち、また人間とはちがう人魚である彼女は、この種族間の衝突の調整をしてきた。しかしそのミレリアをもってしても、そろそろ制御が難しくなってきたのだ。

 そこでミレリアの力が及ぶうちに、帝国の制度設計自体を変えて、衝突そのものを調整できるようにする、という改革を秘かに進めている。


 何人かの識者との会談を進めていくうちに、ネックは皇帝制度ではないかという意見が出てきた。現行では皇帝の任期は終生であり、死亡、辞任、議会からの退位要請以外では皇帝が変わらない。

 これでは在位期間が長すぎるのだ。なので皇帝と敵対する派閥は、議会で退位要請を通そうとして議会が紛糾する。派閥同士の足の引っ張り合いで、他の議題が一向に進まない。

 そこで終生ではなく5年程度で自動的に退位する方式にしてはどうか?という案が浮上したのである。


 案としては妥当に見えるが、問題はそれが通るかどうかである。ミレリアは目がしらに手を当てて、考えながら言う。

「難しいけど……何とかやってみる」

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