紀元400年
禁忌-1
400年を生きる人魚、ミレリアによって作られた「魔術」によって、帝国は発展を始めた。帝国の国力がみるみる内に高まり、周辺の国から突出した国へと変貌を遂げる。まず単純に軍事力が高まり、周辺国との均衡が崩れる。生活力が向上することで、他の国からみても、魅力的な文化を発するようになる。特に発展の根幹にあった「魔術」は大変魅力的であった。各国は自国でも魔術を開発出来ないかと、手探りでの開発を試みようとし始めていた。
一人の女性が腕を組んで、豪華な椅子の上で座っている。長身で長足、スリムだが華奢ではない。腰ほどもある漆黒の黒髪が緩やかな三つ編みでまとめられている。彼女の名前はミレリア。今話題の魔術の創設者である。
彼女は、その切れ目の長いアーモンド形の目で不満そうに、目の前にいる二人の男を見つめている。
男の内の一人は人間であり、名をパスカルという。もう一人は犬型の獣人であり、名をオスカーという。彼らはミレリアと共に魔術の研究開発に関わる、研究者たちだ。
近年では、帝国に関わる人種が多様化している。従来は人間が中心であったが、今ではオスカーのような獣人も増えてきている。彼らのような新参の獣人と、従来から居る人間との間では、揉め事が絶えない。そこで「国母」の称号を持ちながらも、人間でなく人魚であるミレリアは、しばしば仲裁を行っていた。
しかし、今回は様相が違う。ミレリアに対して、人間と獣人の研究者が共同で説得に来ているのだ。
その内容はというと、今後の帝国の魔術の扱いについての相談であった。彼らは、帝国の魔術を、部分的に他の国に対して公開すべきではないか?という提案をしに来たのだ。
ミレリアは、これが不満だった。当然の疑問を口にする。
「なぜ?他の国に公開する必要が?」
獣人のオスカーが、これに答える。
「他国でも、魔術の研究を進める動きが出ています。単純に同じものを別々に研究するのは効率が悪いのでは?という意見があります」
人間のパスカルもまた、これに重ねる。
「他国が別で魔術を研究してしまうと、帝国側から魔術の存在の制御が出来なくなってしまいます。部分的にでも開放して、こちらの影響力を行使する必要があるのではないかと……」
それを聞いても、ミレリアの顔色は変わらない。
そもそも魔術とは、ミレリアの個人研究から始まっている。いわば彼女の私物と言ってもいいだろう。これを帝国の発展に活用したのは、彼女の判断であり、これが活用できたのは、彼女の作った魔術の完成度が高かったからに過ぎない。
なので、帝国の発展に使うならともかく、他国に開放云々となると話が違ってくる。なにせ300年以上の年月を費やした、血と汗の結晶なのだ。おいそれと、赤の他人にくれてやるつもりなどない。
説得に来た彼らとて、その事情は十分把握している。それでもなお、そうしてもでも影響力を行使すべきである、という種族を越えた倫理観から説得に来ている。
ミレリアが、嫌そうに言う。
「そんなに、禁忌の、反魂の研究を制御したいのですか?」
「生命力を魔力に変換する」
魔術とは、これによって生み出した魔力を操作して、何かを行う一連の操作を主軸としている。なぜ、これが主軸なのかというと、単純に、不死の人魚であるミレリアにとって都合が良いためだ。前述した通り、魔術とはミレリアの私物であるためである。それゆえに、他人が使うときにどう考えるかは、特に考慮していない。そんなつもりで作っていないからだ。
だが、不死でない者にとって、上記の理論を聞いた時に、別の可能性を考える。
「生命力を魔力に変換する、その逆をすれば、自身も不死になれるのでは?」
この研究を通称「反魂」と呼ぶ。これを「禁忌」とすべきではないか?という意見が、魔術を研究する者たちの間からも出始めたのだ。どう考えても研究の過程と結果で、非人道的なことが行われるであろうことが、明白であったからだ。
それを制御するために、人間のパスカルと獣人のオスカーが、種族を越えて、ミレリアの説得に来ている。
だが、ミレリアは乗り気でない。自身が不死であるミレリアは、そうでない他者が、どれほど不死を望んでいるかに関しての見積が、甘いところがある。彼女にしてみれば、力のない不死など惨めなだけだからだ。実際に寿命だけを武器にこの地位へ至るまでに、彼女は300年以上を費やしている。重要なのは力であって、不死か否かではない、と考えている。
これは価値観の違いと言って良い。パスカルとオスカーは、顔を見合わせた。
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