国母-3
馬車に乗って各地を出歩く。ミレリアは窓から無表情で外を眺めている。目的もなく、何日も出歩いた。目に景色が映っても、頭には入ってこない。それでも出歩いた。
ある日のことだった。道端で女性がうずくまっているのを目にする。夫と思しき男が、近くで助けを求めていた。
「助けてください!!妻が、妻が」
御者が馬車を止める。よく見てみると、女性は苦しそうに大きな腹部を抑えていた。どうやら産気づいたようだ。
医者を呼ぶべきか、と御者が悩んでいると、馬車のドアが開いてミレリアが降りてきた。
ミレリアが無表情で言う。
「私が取り上げよう。大丈夫だ、宮中でも何度か手伝ったことがある。やり方は知っている。近くの家を借りろ。」
「ほぎゃー、ほぎゃー」
無事に生まれた赤ん坊が産声を上げた。ミレリアはへその緒を手早く処理しながら無表情に言う。
「女の子だ」
仕事を終えた母親に赤ん坊を抱かせてやると、夫婦は涙目で何度も何度も礼を言った。
ミレリアは、無表情で手早く片付けをした。家から出ようとすると、その背後から母親がミレリアに言う。
「ミレリア様。この子の、名付け親になって頂けないでしょうか?」
ミレリアは立ち止った。名前……名前……
「……ルシエラ」
ミレリアは振り返らずに、何も考えずとも頭に浮かんだ、かつて自分の母替わりだった女の名前を言った。
「ルシエラ……ありがとうございます!素敵な名前です!ありがとうございます!」
夫婦は再び何度も礼を言った。
「私の……恩人の名だ……」
ミレリアはそういうとドアを開けて馬車に向かった。もう、耐えられなかった。
馬車に入ると、ドアを閉めて、すべてのカーテンを閉めた。もう、耐えられなかった。
ミレリアは、泣いた。声を押し殺して、泣いた。
ミレリアは、救われたのだ。
以前、ミレリアに意見をしたフランツが、ミレリアの元に呼ばれた。フランツは覚悟を決めてミレリアの前に立つ。
「お前は私に、外に出ろ、と言ったな。私は外にいってきたぞ……」
フランツは目を閉じる。しかし次に続いた言葉は意外なものだった。
「それで……私はどうすればよいのだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます