紀元350年

国母-1

 皇帝をねじ伏せ、軍の鼻っ柱を叩き折った、300年以上を生きる美しき宮廷の人魚、ミレリア。彼女はさらなる力を求めるべく、魔法研究に熱中した。帝国の権力を掌握したミレリアの、魔法研究に対する情熱はとどまるところを知らない。

 成功するかどうも分からない研究、コストパフォーマンスを度外視した試作品、貴重な研究材料の購入など、基礎研究には資金が必要だ。ミレリアは凄まじいい勢いで国庫を溶かしていく。すでに帝国のインフラの劣化、軍の弱体化による治安の低下、貧民救済資金の枯渇など、多方面において深刻な問題が出始めていた。

 しかしミレリアに対して意見するものは居ない。「ミレリアの糸」で知られるその政治力と、「冥府の女王」の苛烈さは皆を委縮させていた。ミレリアも他人の意見など聞こうなどとは考えない。


「私がすべてを決める。お前たちは何も考えなくていい!」

「お前たちが何を知っているのだ。私が知らないわけないだろう!」

 ミレリアの傲慢は頂点に達していた。


 ある日、覚悟を決めた顔をして、一人の若い男が、椅子に腰かけるミレリアの前に進み出た。

「ミレリア様、あなたはもっと外に出るべきです!」


 男の名はフランツ。この帝国の内政を取り仕切る役人であり、財政破綻をきたしている帝国の財務状況を、何とかやりくりしてきた男だ。そのフランツはすでに限界が迫っていることを悟っている。

 帝国の窮状を伝えるべく、恐怖を何とか抑えて、ミレリアへ直訴に来たのだ。

 久方ぶりにミレリアへ意見するものが現れ、ミレリアは少し面食らった。だが、すぐに怒りが彼女を塗り替える。ミレリアは近習に目配せをすると、近習は慌てた様子で男を外に連れ出した。


 フン、外に出ろ、だと。まあ良いだろう、たまには顔を出すのも悪くはない。

 ミレリアは馬車を手配するように、執事に伝えた。

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