冥府の女王-3
講演当日、ミレリアは姿を現した。会場から拍手が上がる。会場の壁際には訝しげに目を向けるものや、馬鹿にして見つめているものもいる。
ミレリアが用意された豪華な椅子に腰を下ろした瞬間だった。
「曲者だ」
会場から声が上がるとともに、4人のフードを被った男たちが短剣を手にミレリアに突進してきた。
突如として起きた事態に、皆がパニックになった。悲鳴、驚き、傍観、期待、会場ではさまざまな感情が入り乱れる。
しかしミレリアは眉も動かさずに足を組み、ひじ掛けに肘を下ろして頬杖をつく。
ミレリアの周りに4本の水柱が現れた。突進してきた曲者たちは、突如として現れたその水柱をかわし切れず、それぞれに突っ込んでいった。
「おお!」
会場からは感嘆のため息が聞こえる。が、事態はそれでは終わらなかった。
水柱は徐々に渦を巻き始めた。渦に合わせて回転する男たちは、徐々に窒息していって、もがくのをやめた。遺体は糸の切れた人形のように水流に合わせて回転していく。
水流の回転は徐々に加速していく。人体の全身の関節があらぬ方向に曲がり始める。
水流の回転はさらに加速し、水柱に凄まじい遠心力を生む。その巨大な力によって、人体が、雑巾を絞ったようにねじ切れていく。水柱は突如としてどす黒く変色した。
4本の水柱が一か所に向けてゆっくりと動き出す。合流した4つの水柱は、やがて巨大な一本のそれとなった。
一本になってからさらに加速を重ねてた渦は、突如として、炸裂した。
炸裂した水しぶきが、会場の観客たちに血の雨となって降り注いだ。臓物が飛び散り、辺り一帯は地獄絵図となった。
ポタポタと滴る血の音を除いて、会場は静粛に包まれた。あまりの恐怖に声も瞬きもできない。失禁しているものもいるが、気に留める者など誰もいない。全員が目を見開き、壇上のミレリアを見つめる。
ミレリアは薄ら笑いを浮かべながら会場を見下ろしていた。
事前に話を聞いていたラスタバンはかろうじて平静を保っていたが、それでも震える手を抑えるのに必死だった。横目で見る軍の高官は、他の人たちと同様に恐怖に包まれている。
無理もない。いかに戦場といえど、ここまでの光景を拝むことはあるまい。
ラスタバンは先日の会話を思い出した。
ミレリアは言う。
「いや、私に考えがある」
「考え?とは?」
ミレリアの思わぬ回答に、ラスタバンは問い返した。
ミレリアは不敵に答える。
「連中は私に、恐怖に怯えて逃げ惑うお姫様を演じて欲しいのだろう。いいだろう、演じてやる。演じるのは得意なのだ。」
ミレリアは続ける。
「ただし何を演じるのかは私が決めるのだ。そうだな、演目はこうだ……」
何という恐ろしい方だろう。この方は完璧に演じられた。完璧にだ。
ラスタバンは恐怖と共に畏怖の念を持ってミレリアを見つめる。
「冥府の女王」
冥府の女王を怒らせた狩人が、再終幕で切り刻まれ、血の雨になって終わる有名な演目。
ミレリアのプレゼンテーションは完全に成功した。以降、ミレリアを止めらるものは誰もいなくなった。
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