紀元250年

ミレリアの糸-1

 この帝国の皇帝は貴族たちの投票によって選出される。皇帝の退位は死亡、辞任、議会からの退位要請など様々だが、その後に投票が行われることで次の皇帝が決まるのだ。先日、皇帝リオファレスが崩御した。この3か月後に次の皇帝を決めるための投票が始まる。次期皇帝を決めるための票をめぐり、水面下で候補者たちはそれぞれが動き出していた。


「もちろん、私にできることがあれば……協力する」

 誰もいない窓際のテラスで女が言った。

 高い身長に長い脚。厚手の豪華な服の上からでもわかるプロポーション。巻き上げられた長い髪の毛は頭上で漆黒の大輪の花を咲かせている。少しだけ吊り上がった切れ目の長いアーモンド形の目が笑顔で細くなり、口元には緩やかな微笑が浮かんでいた。女の名はミレリア。不死の人魚であり、代々の皇帝に「継承」されてきた生きる宝石である。

「じゃあ、よろしく頼む」

 男はそう言うとミレリアに軽く接吻をした。ミレリアは満足そうに笑う。男は惜しそうに席を立った。男の名はレボルト。次の皇帝選挙の有力候補の一人である。選挙の票固めのために宮廷内において幅広い人脈を持つ、ミレリアの力を借りにここへ来たのだ。

 レボルトはミレリアとは昵懇の仲である。今までも様々な政策において互いに協力してきた。皇帝の目を盗んで私的な密会を重ねたことも一度や二度ではない。レボルトは選挙協力の見返りとして、ミレリアが秘かに行っていた魔法研究に、帝国の国庫から資金を充てることを約束したのだ。


 魔法を使って何をしたいのかは、レボルトには分からない。魔法など手品や演目で使うものであり、特に何かの役に立つものとは思えない。

(女の欲しいものは分からんな)

 レボルトは内心で独り言ちつつ、次の選挙協力先である者の元に足早に向かう。レボルトとミレリアの動員できる票、それともう2,3人の協力者の目途が付けば過半数を超える見積だ。レボルトは自身が最高権力者なる姿を想像するだけで、口元がにやけてしまう。もはや想像ではない、現実のものとなるのだ。

 (それに……)

 皇帝になれば正式にあの女が手に入る。もう密会という後ろめたい手段をとる必要はないのだ。

(待っていろよ、ミレリア。ようやくお前と一緒に過ごせるようになる)

 レボルトはその歩みをさらに加速させた。

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