第3話 後編(完結)

 最奥につくまでに、さらに2匹を片付けた。

 洞窟の奥はちょっとした広間のようになっていた。

 伏兵が倒されたことに気がついたのだろう。

 6匹のゴブリンが密集して待ち構えていた。

 群れの中央にはどこぞで拾ったのだろう襤褸切れを体に巻き付けた大柄な個体がおり、狼か何かの頭蓋骨を被っている。あれがシャーマンだろう。

 先端にイタチか何かの頭蓋骨を飾った杖をかかげ、グギャグギャと呪文らしきものを唱えている。にしても、頭蓋骨大好きだな。


 杖の先から、悪意の線がすっとこちらに伸びた。

 魔術だ。

 さっと横っ飛びすると、さっきまでいた場所を炎の矢が通り過ぎていく。


「ギギィッ!?」


 人語に訳するなら「何ィ!?」といったところか。

 必殺の魔術が外されて、うろたえているところに目潰しの煙玉を投げつける。

 卵の殻に唐辛子やら鉄錆を削った粉やらを詰めたオリジナルの逸品だ。

 ソロ冒険者たるもの、この手の準備は欠かせない。

 目や喉を押さえて苦しんでいるところにすかさず突撃し、戦鎚を縦横に振り回す。


「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」

「ガギャッ」「ギギャッ」「グギャッ」「ゲギャッ」「ゴギャッ」

「ふうんっ!!」

「ギャギャッ」


 物言わぬ肉塊が6つ、地面に転がった。

 ゴブリンなんて、数を頼みに四方八方から襲ってくるから怖いのだ。

 半端に知恵をつけて、シャーマンを守る隊形など作ったのがよくなかった。

 そんなものは正面からねじ伏せられる。

 やつらの個々の体力は人間の子供程度なのだ。


 念のためのトドメを済ませて、辺りを捜索すると小部屋が見つかった。

 やつらなりの「お宝」を隠していたのだろう。

 出入口は木の枝と草を編んだもので塞がれていて、中には動物の骨やボロボロの布類、割れた陶器などが散乱していた。


 その中に、比較的新しい骨がある。

 人骨だ。

 大人の大きさではない。

 肉をかじり取った跡もまだ生々しい。

 少年の。

 犬人族の。


「お兄……ちゃん……」


 後ろからすすり泣きが聞こえる。

 あたしは黙って骨を並べる。

 細かいのは無理だ。

 大きな骨だけ寄せ集めて、せめて人の形に戻してやる。

 辺りから、ぼんやりとした気配が集まってきた。

 骨の上で寄り集まって、ひとつの形を成す。


「お兄……ちゃん……!」


 犬人族の男の子がいた。

 ホナウより、歳はひとつかふたつ上か。

 薄い光をまとって、半透明で、向こう側が透けていて。

 その眼差しには困惑と、妹を心配する色があって。


「お兄ちゃん!」

「ホナウ!」


 ホナウが駆け出して、少年の胸に飛び込んだ。

 ホナウの身体も光をまとって、薄くなって、向こう側が透けて。

 少年の体と溶け合って。

 細い光の柱になって、消えた。


 * * *


「ひと仕事終わったよー」


 ギルドに戻ったあたしは、ソフィアにそれだけを告げた。

 ソフィアは「おつかれさま」とだけ言って、報酬をくれた。

 ホナウという少女の霊はもういない。

 たぶん、お兄ちゃんはホナウのためにクスリタケを取りに行ったのだろう。

 そして帰らぬ人となり、薬がなかったホナウもまた……

 よくある悲劇だ。

 よくある悲劇だが、ソフィアもあたしと同じ「見えるひと」だから、余計な説明をしなくていいのは気が楽だ。


 亡霊は見えない人間にも影響を及ぼす。

 近くにいるとなんとなく気分が落ち込んだり、体調を崩したりするのだ。

 そんなわけで、ギルドに亡霊が紛れ込んだときはソフィアの依頼が発生する。

 冒険者ギルドはサービスの差がない分、ちょっとしたことで客足に差がつく。

 亡霊のいない明るいお仕事斡旋所がこのギルドの隠れたウリってわけだった。


 この力があるから女だてらにソロ冒険者なんてやってられるし、これのせいでソロ冒険者をやっているとも言える。

 今回はダンジョン化もしていない洞窟だったからよかったけど、人死にの多いダンジョンとかだとね……

 生者と亡霊の区別が咄嗟につかないことがあって危ないのよ。

 一度本当にひどい目に遭ったからなあ……。


 っと、それはそれとして、臨時収入もあったことだし気分を切り替えよう。

 給仕を呼び、硬貨を渡して果実酒と肉料理をオーダーする。


 豚の塩漬けのいいのが入ったって?

 いいねえ、塊で豪快に頼むよ。

 あ、それからクスリタケのソテーもお願い。

 洞窟で取ってきたからさ、こいつを使ってよ。


 ……ってな感じでしんみり飲んでいたのだが。


「冒険者のお姉ちゃん! わたしを弟子にしてっ!!」


 元気いっぱいに声をかけられて、思わずびくっとしてしまった。

 声のもとを振り返る。

 そこには赤茶けたボサボサ髪の、犬人族の女の子が立っていた。


「ホナウ……どうして?」

「ずっと寝込んでたんだけど、起きたの!」


 あー……。

 少し考えて、合点する。

 洞窟で消えたあのホナウは生霊だったのだ。

 病気などで身体が弱ると、魂が抜け出て彷徨うことがある。

 病気で寝込んでいたが、霊が戻って元気を取り戻したんだろう。

 しかし、それだけで病人がこんなにも元気になるだろうか。

 さては……


「あのお姉ちゃんが、お薬とご飯をくれたの!」


 カウンターの向こうでは、ソフィアがどやっと親指を立てていた。

 あんにゃろう、しれっとホナウの身元も確認してたんだな。


「それでねっ! わたしも冒険者になることにしたのっ! お兄ちゃんの夢だったから!」


 きらきらした瞳があたしを見上げている。

 うーん、どうしたもんかなあ。

 お兄ちゃんが夢見たような冒険者のなり方なんて、たぶんあたしは知らないぞ。


(了)

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見えるアラサー冒険者と貧者の万能薬 瘴気領域 @wantan_tabetai

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