片手パズル
小石原淳
第1話
「皆さんの話を聞き終わった訳ですが、つまるところ、焦点はドアノブの手型に集約されるようですね」
私の椅子の背もたれに手を掛けながら、傍らに立った
ここは宿泊施設の中央センターにある会議室。周辺にはロッジを模した棟が三十ほどあり、それぞれ二~四名まで泊まれるという。棟にはいくつかのランク付けがなされていて、学生らは一番安い、風呂・トイレなしのタイプを選ぶ場合が多いとのことだ。
今、会議室に集まっているのは、私と地天馬以外に五名。この五人は、同じ大学に通う学生男一人に女四人からなる。彼らも一番安いタイプのコテージに泊まっているが、一棟に一人ずつというから、便利さよりもプライベート空間を重視したようだ。四年前にここを利用したことのある
昨日の夜から今日に掛けて、施設に泊まったのはここにいる七名だけと聞いた。
昨晩、彼らの仲間の一人・
もちろん通報は速やかになされたのだが、警察の到着は遅れる見込みだった。折悪しく、土砂災害が発生し、道路が一部通行止めになっていたのだ。どうすべきか考えあぐねた被害者の友人達や施設の支配人は、地天馬が殺人事件を解決した実績のある探偵だと知り、事態の一時的な収拾を頼んできた次第である。
そして、ここが要なのだが、コテージの配されたテリトリーへの通路には、防犯カメラが設置されており、その映像を確認したところ、昨晩遅くから今朝に掛けて、コテージのある区画を出入りした人物は皆無。また、その通路を使わずに、施設の敷地を出入りすことはかなわない(空を飛ぶか、地中に潜るかでもしない限り)。つまり、殺人犯はコテージに泊まった五人、いや、厳密を期して私達も含めると七人の中にいることとなる。
「手型って、私も見ましたが――」
一番近くに座る
「血がべったりと付いたもので、指紋はおろか、掌紋も期待できそうにありませんでした。あれでも重要な証拠になるんでしょうか」
先生に質問をぶつけるときもこんな感じなんだろうなと想像できる。私は苦笑を忍ばせつつ、地天馬の方を見た。
「なるかならないかと問うのなら、なると断言できる。子細に観察すれば分かるように、あの手型を着けた主――殺人犯は、手袋をしていたに違いない。それもラテックス製のね。その上、ノブを捻る動作により擦れているし、指紋や掌紋が採れないのは当然。せいぜい、手のサイズがおおよそ推測できる程度かな」
「手の大きさが重要な手掛かりになるんでしょうか? 私達の手って、そんなに差がないように見えます」
都出の台詞をきっかけに、他の四人が自らの手のひらに視線を落とす。次いで、仲間達の手元を見やった。
「注目すべきは、手のサイズではありません」
地天馬が断言した。
「皆さんは、手型が左右どちらの手によるものか、認識していますか?」
「えっと」
返答に窮した都出。代わって、私達からは一番遠く、出入り口のドアそばに座る金山が答えた。
「確か、右手でした」
背が高く、顔も整っているが、髪型と眼鏡が生真面目な雰囲気を醸し出している。他のことならいざ知らず、異性にもてるかどうかという点では、損をしているんじゃないだろうか。
「あ、つまり、犯人は右利きだと示してるから、重要ってこと?」
分かったとばかりに両手を合わせ、高い声を上げたのは、
「そう言い切れるかどうか。島谷さんは左利き?」
地天馬の質問に、彼女は首を縦に振った。
「では、ドアを開けるとき、常に左手を使うかな?」
「それは……」
ドアを開ける仕種を、右手と左手でやってみる島本。ふと周りを見ると、金山を除く三人の女性は、同じことをやっていた。
「分からないわ。そのときどきによるというか……ただ、今度泊まったコテージから出るときは、左手を使う。それは確かよ」
その返事に続き、「私も」「僕もです」と、金山や都出らも口々に言った。
「それが自然です。コテージ内から外に出るとき、右手で開けようとすると、自分自身の身体が邪魔になるのだから」
コテージのドアは、全て同じ立て付けになっている。室内でドアの真正面に立ったとき、向かって右側にノブがあり、そこを捻って引くことで、ドアは内側左に開く。やってみるとよく分かるが、このドアを右手で開けると、自らの手が邪魔になり、出にくいことこの上ない。
「犯人は何故、左手ではなく右手でドアを開けたか。これは大きな手掛かりと言える。理由が判明すれば、きっと犯人に近付ける」
「私達の誰も、そんな開け方、しないわ」
「だよねー」
今まで黙っていた女性二人――
「そういう開け方をする人が犯人だって言うのなら、私達の中にはそんな人いないと思いまーす」
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片手パズル 小石原淳 @koIshiara-Jun
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