第3話 影が喋るとか聞いてないんですけど!?
ゼロが、家に帰ろうとした瞬間だった。
世界が――
ぐにゃりと歪んだ。
「……は?」
足を一歩踏み出したはずなのに、
感覚がついてこない。
校舎の影が、
溶けるみたいに広がっていく。
アスファルトに落ちていた影は、
水面のように揺れ、
波紋を描いた。
「ちょ、待て待て待て……」
俺は慌てて立ち止まる。
(なにこれ……
目、やられてないよな……?)
――いや。
これは、
目の問題じゃない。
足元の影が、
はっきりと――
“こちらを見ていた”。
「………………」
声が出ない。
影の中に、
確かに“目”がある。
黒くて、
濃くて、
逃げ場のない視線。
「いやいやいやいや!!」
一拍遅れて、
言葉が噴き出した。
「影って見る側だろ!!
見られる側じゃねぇだろ!!
設定どうなってんだよ!!」
後ずさると、
影も一緒に動いた。
ぴたりと。
逃がさない距離で。
「来るな来るな来るな!!」
影が、
ゆっくりと蠢く。
そして――
声がした。
『……ミツケタ……』
低く、
掠れた声。
空気を震わせるように、
直接、頭の中に響く。
「見つけなくていい!!」
俺は叫ぶ。
「スルーしろ!!
影界!!
今はそっとしておいて!!」
ナミが、すぐ横に立っていた。
「ゼロくん、落ち着いて」
その声で、
かろうじて意識が繋がる。
「これは……
“影神眼”の初期反応だから」
「初期反応!?」
俺は思わず振り向く。
「それ、もっと軽いやつだろ!?
くしゃみとかだろ!?」
サヤが、少し楽しそうに言う。
「ゼロの能力が強すぎて、
日常空間の影が耐えきれないのよ」
「俺が悪いみたいに言うな!!
耐久値低いのは世界の方だろ!!」
アカネが、目を輝かせた。
「マジで!?
ゼロ、そんなチートだったん!?」
「チートいらねぇ!!
普通をくれ!!」
静香が、そっと前に出る。
「大丈夫よ、ゼロくん。
私たちが……守るから」
その言葉に、
胸がきゅっと締め付けられる。
守られる側になる覚えは、
なかったのに。
マユが、影を見つめて呟いた。
「影さん……
怒ってる……」
「怒らせた覚えない!!
俺、影に何した!?」
久美が、静かに告げる。
「ゼロ。
目を閉じなさい」
「は?」
「影神眼は、
“見ようとする意思”で
暴走する」
「閉じれば、
干渉は弱まるわ」
「……わかった!」
俺は、ぎゅっと目を閉じた。
――なのに。
暗闇の中で、
影だけが、はっきり見える。
「閉じた意味ぃぃぃ!!」
叫び声が、
自分のものとは思えない。
『ゼロ♡』
耳元で、
あの声。
『影神眼・第一段階——
“影の声が聞こえる”状態に
入りました♡』
「勝手に段階進めんな!!」
俺は半泣きで叫ぶ。
「オンオフは!?
設定画面は!?
休止ボタンどこ!?」
『ないよ♡』
「即答すんな!!
俺の平凡どこ行った!!」
影が、
再び囁く。
『……ココへ……
カエッテ……』
その声と同時に、
胸の奥に何かが流れ込んできた。
恐怖。
孤独。
渇き。
それは、
影の感情――
いや、
どこか俺自身の感情だった。
「……やめろ」
歯を食いしばる。
「それ以上、
入ってくるな……」
ナミが、
俺の手を強く握った。
「大丈夫」
震えない声。
「ゼロくんは、
まだ“選べる”」
その言葉で、
ようやく意識を保てた。
影が、
少しだけ距離を取る。
『……マダ……』
声が、遠ざかる。
影の目が、
ゆっくりと閉じた。
世界の歪みが、
わずかに収まる。
俺は、
大きく息を吐いた。
「……生きてる」
『おめでとう♡
初回覚醒、無事クリアだよゼロ』
「全然おめでたくねぇ!!」
俺は叫ぶ。
「初回でこれなら、
次どうなるんだよ!!」
『ふふ。
次は……
影界が本気で
呼びに来るかな♡』
「来るな!!
招待状、破棄!!」
けれど、
もう分かっていた。
逃げても、
影は追ってくる。
見えなかった世界を、
見てしまったのだから。
足元の影が、
静かに、
再び蠢いた。
――――――――――
第1章・第3話 了
影の家系 シエスタ @siesta39
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