第2話 俺の知らない設定が増えすぎなんだけど!?

サヤの言葉が、頭の中で反響していた。


――影神眼。


いや、知らない。

聞いたこともない。

そもそも俺の人生に「眼」とか「神」とか、

そんな物騒な単語は不要だ。


「……なぁ」


俺は机に手をついて、サヤを見る。


「それ、本気で言ってる?」


「ええ」

サヤは楽しそうに微笑む。

「とても、本気」


「やめてくれ……」


影神眼。

影の家系。

影術。


知らない設定が、

一気に三つも増えた。


俺の脳内メモリ、

そんなに空いてない。


――と、そのとき。


「おーいゼローー!!」


教室の入口から、

やたら元気な声が飛んできた。


「影出てるぞーー!!

ほら、そこそこ! 足元!!」


疾影アカネだった。


「は?」


俺は反射的に足元を見る。


「出てるってなんだよ!!

影は出るもんだろ普通!!」


「ちげーよ!」

アカネは指をさす。

「“動いてる”って意味だ!!」


「動いてちゃダメだろ影!!

俺の影、反抗期なの!?」


教室の床に落ちた俺の影は、

確かに――

わずかに揺れていた。


……いや、揺れてるとかいうレベルじゃない。

伸びている。


じわり、と。

意思を持ったみたいに。


背筋が冷たくなる。


「……見えてる?」


俺が小声で聞くと、

アカネは当然のようにうなずいた。


「見えてる見えてる!

なんかキモいぞそれ!」


「キモいって言うな!!

俺の影だぞ!!」


そこへ、

落ち着いた声が割って入った。


「こらー。

廊下走らない」


振り向くと、

教師の古影久美が立っていた。


「……あとゼロ」


嫌な予感しかしない。


「あなたの影、

さっきから廊下の天井を歩いてるわよ」


「最悪の報告きた!!」


思わず叫ぶ。


「先生、それ見えてるんですか!?」


「見えてるわよ」

久美は平然と言った。

「だって私は“影守の血筋”だから」


「なんで教師がそんな設定背負ってんの!?

この学校どうなってるんだよ!!」


俺の世界観が、

音を立てて崩れていく。


その横から、

控えめな声が聞こえた。


「ゼロくん……

怖くない……?」


振り向くと、

静香が心配そうにこちらを見ている。


「もし怖かったら……

手、つないで?」


「……静香さん」


その言葉だけで、

心が一瞬だけ救われた。


「なんでそんな天使みたいなんですか……」


だが、安らぎは長く続かない。


さらに、

小さな声が重なる。


「ゼロお兄ちゃん……

影さん、泣いてるよ……?」


影守マユが、

じっと床を見つめていた。


「影さん!?」


思わず声が裏返る。


「影に人格ついてんの!?

俺の人生どうなってんだ!!」


最悪だ。


……いや。


最高かもしれないが、

やっぱり最悪だ。


そんな俺の耳元で、

軽薄な声が囁いた。


『ゼロ♡

そろそろ“家系の真相”、

聞いとく?』


「AI!!」


俺は叫ぶ。


「お前が一番信用できねぇ!!」


『影神眼、

もう起動してるよ♡

次、なにが見えるかな〜?』


「やめろォォ!!」


俺は頭を抱えた。


「頼むから……

“普通”をくれぇぇぇ!!」


だが、

その願いが届くことはなかった。


足元の影が、

ゆっくりと、

濃くなっていく。


まるで、

何かが――

目覚めようとしているみたいに。


――――――――――

第1章・第2話 了

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