第8話 寺男

 お蘭が危ない・・


 俺は刀を振りかぶろうとした、


 だが、腕が動かない。


 見ると、横の白壁から手が二本出て・・俺の腕を抑えていた。玄海の手だ。


 男が俺を見た。


 「女は幻朧げんろう星人にくれてやって・・おめえは俺が息の根を止めてやるぜ」


 男が匕首を持って、俺に近づいてきた。


 俺の手は動かない。俺の頭が真っ白になった。


 や、られる・・


 そのときだ。地面であえいでいた寺男の久助が立ち上がった。短筒のようなものを握っている。久助が男に言った。


 「時間犯罪者め。息の根を止められるのは・・おめえの方でえ」


 久助の短筒から赤い光が走った。男が咄嗟に地面に転がった。男の声がした。


 「お前も・・時間管理局の者だったのか! く、くそ・・」


 久助が短筒を今度は玄海に向けた。玄海の口から伸びた手が、お蘭の首を絞めている。お蘭の苦悶の表情が見えた。久助の短筒が玄海に向けて、赤い光を放った。


 玄海の身体が真っ赤になった。


 次の瞬間、「ぐえええええ」という叫び声と共に・・玄海の身体が消えた。お蘭の首を絞めていた手も消えている。お蘭の身体が地面に崩れ落ちた。


 俺の腕が急に自由になった。見ると・・壁から出ていた玄海の両手が消えていた。


 俺は刀を頭上高く振り上げると、地面に倒れている男に向かって走った。


 男が着流しを脱ぐと、夜空に放り投げた。着流しが宙を舞った。玄海が木に掛けた提灯が着流しを怪しく照らした。


 俺は渾身の力で刀を振り下ろした・・


 提灯のオレンジの光の中で・・男の着流しが、まっぷたつになった。二枚の布切れがゆっくりと地面に落ちる。俺は地面を見た。


 男の姿は消えていた。


 「しまった。タイムマシンで逃げられた」


 俺の背中で久助の声がした。


 「追うな、源」


 えっ・・源?


 俺は振り返った。久助が片手でお蘭を抱きかかえて立っていた。久助がもう片方の手で・・バリバリと顔のマスクをいだ。


 提灯の灯りに照らされて、そこにあったのは・・田中鉄工所の大将、田中亀次の顔だった。

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