第7話 玄海

 何かを切る手ごたえがあった。


 手が久助の首から離れて・・地面に落ちた。ドサッと音がした。


 久助が地面に倒れた。大きく口を開けて、息を吐いている。


 玄海が地面に落ちた手を拾った。玄海が大きく口を開けると・・拾った手を口の中に入れた。


 俺もお蘭も呆然となって、それを見ていた。


 すると、玄海が口の中に入れた手が・・伸びてきた。手が地面であえいでいる久助の首筋を掴んだ。そのまま、久助を持ち上げる。すごい力だ。


 手が久助の首を、玄海の口元まで引き上げた。玄海がさらに口を大きく開けた。お蘭が持つ提灯の灯りに、玄海の口の中の牙が光った。


 久助の首を噛み切るつもりだ。


 俺は夢中で刀を振り上げると、玄海に向かって振り下ろした。


 玄海の口から出ている手が久助を離した。久助の身体が地面に再び落ちた。俺の刀が玄海に触れる直前・・玄海の身体が宙を飛んだ。刀が空しく空を切った。玄海が一丈ほど離れたところに降り立った。


 俺は叫んだ。


 「お前は何者だ」


 俺の後ろから「きゃっ」と言うお蘭の悲鳴と、「動くな」という野太い声が重なった。


 俺が振り向くと・・


 男がお蘭を羽交い絞めにしていた。俺たちがここへ来る途中、浅草新道で出会った人足の親分格の男だ。汗で光る身体に褌を絞めて、着流しを被っている。あのときの格好のままだ。男の匕首がお欄の喉に当たっていた。男が口を開いた。男の顔の大きな刀傷が歪んだ。


 「おめえら、時間管理局だな。動くと、この女を殺すぞ」


 俺は動けなかった。


 この男は時間犯罪者だったのか・・


 すると、玄海の口の手が俺に伸びてきた。俺の首を掴んだ。締め付けてきた。


 い、息ができない・・


 俺は刀を振った。


 玄海の手が俺の首から離れて・・地面に落ちた。すると、玄海がそれを拾って、再び口の中に押し込んだ。その手が再び俺に向かって伸びてくる。俺は刀を振り上げた。


 男の声が聞こえた。


 「何度やっても同じことさ。死ぬ前に教えてやろう。そいつは、幻朧げんろう星人さ。幻朧げんろう星といっても天の川の端にある、誰も知らねえ星だがな」


 玄海の手が止まった。俺は男に聞き返した。


 「和尚が異星人だと?」


 「そうさ。そいつは、幻朧げんろう星の犯罪者だよ。機械タイムマシンで地球のこの時代の・・江戸の町に逃げてきたってわけさ。今年、巨大な彗星が現れただろう。あれは、そいつを追ってきた幻朧げんろう星のどでかい宇宙船なのさ。宇宙船は、そいつを探し出し、致命傷を与えて・・幻朧げんろう星に戻って行った。俺は犯罪者を過去に逃亡させる闇の仕事をしていてね。死にかけていたそいつを助けて、五日ほど前にようやく蘇生させることに成功したんだよ」

 

 「・・・」


 「幻朧げんろう星人は三本の手を持っていて、それらの手は・・おめえが見たように・・身体から切り離して、自由自在に遠隔操作できるのさ」


 男の手の中でお蘭が叫んだ。


 「手の幽霊って、この異星人の仕業だったのか?」


 男が笑った。


 「そうさ。手だけじゃねえぜ。幻朧げんろう星人は自由に姿を変えることができる。で、幻朧げんろう星人ってのは大食いでね。この江戸で食事をしなくちゃならなくなって。そこで、この寺の玄海という坊主を食って・・こうして、玄海に成りすましているってえことさ」


 男が俺を見た。


 「江戸でゆっくりするつもりだったが、そうもいかないようだな。おめえたちをって、もっと過去へ行くことにするよ。おい、この女も食っちまいな」


 男がお蘭を玄海の方へ突き飛ばした。


 玄海の口から伸びている手が、お蘭の首に巻き付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る