猫の手が借りたい

独立国家の作り方

猫、宇宙を語る

 麗らかな春の日の事、ポカポカ陽気に誘われて二匹の野良猫が屋根の上で日向ぼっこをしている。

 一方の猫を「ニャン三郎」、もう一方を「タマ吉」という。

 この二匹は、古くからの親友であり、ニャン三郎は少し年上の猫だ。


「ニャン三郎兄貴、人間はよく、『猫の手も借りたい』って言うけど、あれは一体何なんです?」


「なんだタマ吉、オメエ、そんな事も知らねえのか? まったく無知だねえ。あれはな、俺たち猫の手が、それだけ欲しいって事よ」


「でもさ、猫の手も、って事は、犬の手や雉の手も、ってことなんだろ?」


「バカかオメエ! 違うよ。大体犬と雉って桃太郎じゃねえか。あれは「猫の手も」、じゃなくて「猫の手が」って言ってんだ、間違えんな!」


 タマ吉は、本当にそうか? と心の中では思いつつ、なんとなくこの上下関係には超えられない圧力があるな、といつも思っていた。

 先輩猫は立ててあげないといけないし。


「人間の奴ら、猫の手なんて借りて一体何をしようってんだろうね」


「そりゃ、おめえ・・・・あれよ、フワフワーって」


「フワフワー?」


「おう、あれだ、フワフワの刑ってやつよ」


「フワフワの刑?」


 タマ吉は、この時点で笑いを堪えるのがキツくなっていた。 

 何なんだフワフワの刑って、と。


「おうよ、人間なんざ、猫の手で『フワフワー』って顔を撫でればイチコロってもんよ。あれは人間の手じゃ出来ねえからよ」


「へー、人間じゃあ出来ねえんっスねえ。それにしてもフワフワの刑なんて、ニャン三郎の兄貴も隅に置けませんね」


「おうよ! まあ、人間だって役に立つこともあるからな、生かしておいてやらねえと」


「どんな役に立つんっスか?」


「そりゃオメエ、ナデナデってヤツよ」


「はあ・・・・ナデナデ」


 タマ吉は、また変な事を言い始めたな、と内心思いつつこのまま放置してたらどこまで話が転がって行くのかが面白そうだと思い始めた。


「日向のな、縁側でよ、人間の膝の上に乗っかって、ナデナデしてもらうのよ。最高じゃねえか」


 話口調が人間のオッサンみたいなくせに、内容が乳幼児レベルだなあと思いつつ、確かに人の膝とナデナデの組み合わせは至高だとタマ吉も思う。

 そんな時は、飼い猫もいいかな? などと考えたりもする。


「なんで膝の上でナデナデされると、あんなに気持ちがいいんですかねえ」


「そりゃオメエ、俺がそう作ったからよ」


「え・・・・? 作った?」


 タマ吉は、またニャン三郎が変な事を言い出したと感じたが、一度行くところまで行ったところが見てみたいという願望が込み上げていた。

 

「そうとも。人間はね、俺が気持ちよくなるために作ったんだ」


「人間を?」


「おう、人間を!」


「・・・・へー」


「それだけじゃねえ、喉のゴロゴロとか、ネコじゃらしとか、あれ、全部オイラが作ったんだぜ」


「・・・・へー」


「なんでい、気の無い返事しやがって」


「だってさ、俺たちが人間を作ったなら、人間が言う神様って、俺たち猫って事になっちまうじゃねえっスか?」


「だからよ、さっきからそう言ってんだよ」


「・・・・俺たち、神様なんっスか?」


「おう、神様よ」


「で、人間の膝が気持ちいいから、人間を作ったと(笑)」


「そうだよ」


 冷やかしのつもりで話に乗っていたが、タマ吉は予想以上にアホな話になったもんだと思っていた、その時までは。

 しかし、考えれば考えるほど、ニャン三郎の言っていることに整合性が取れる事に気付き始める。

 だって、猫、可愛いよな・・・・と。

 ネズミだって小さいし毛むくじゃらだけど、結構嫌われている。

 犬もそうだ。好かれてはいるが、猫を見た時の人間は少し異常だ。

 あらゆる動物の中でも、猫が突出して可愛い。

 そして、その理由は誰にも証明出来ていない。

 猫が神で、人間を創造した、それが哲学的な評価であることに、タマ吉は恐怖したのである。

 合点が行くのだ、猫がこの世界の創造主であるという理屈に。

 猫だけが特別扱いされている事も、呑気でも生きて行けることも、おかしな生体も、全部猫が中心で考えると辻褄が合う。

 ほとんど全ての人類が、自分たち猫を見ると餌をあげたくなる衝動がある。

 あれも、実は餌ではなく「供物」だとしたら、「神」で合っているのではないか。

 虎やライオンも猫と同類のはずだが、やはり違うのだ。

 タマ吉は今、宇宙の真理に触れようとしていた。

 この大宇宙に、もしかしたら中心にあるのは人類ではなく、自分たち猫が所在しているのではないか、と。


「だからさっきからそう言ってんじゃねえか! オメエ、俺が言う事を疑ってたな、こん畜生め・・・・あとな、それ以上詮索しなさんな、真理しんりなんて見えたところで、案外つまんねえもんだぞ」


 タマ吉は、もうそれ以上詮索するのを止めた。

 それは、猫の勘がそうさせたのだ。ニャン三郎の言っていることには、多分真理が含まれる。危険な領域に踏み入れて面倒になるくらいなら、バカなフリしてゴロゴロしている方がよほど利口だと。

 春の日差しにポカポカと、膝の上でナデナデしてもらう喜びがあるならば、誰が創造主でも誰が神でも、きっとどうでも良いことなんだと思えた。


 この極楽が永遠に続く事を、なんとなく祈って。

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