第4話 処刑執行~SSS級の教育的指導~

「ハッ……! 処刑だぁ? 舐めんなよ!」


 アニーが叫び、二丁のリボルバーを構える。  恐怖を振り払うような、早撃ち(ファニング)。  放たれたのは、対戦車ライフル並みの威力を持つ『魔弾』の嵐だ。


 ドガガガガガッ!!


 轟音が森を震わせる。  まともに食らえば、オーク・ジェネラルすら肉片に変わる火力。  だが。


「――遅い」


 ボクは一歩も動かなかった。  ただ、銀色に輝く右手を、軽く前にかざしただけだ。


 キィン、キィン、キィン……。


 澄んだ音が連続して響く。  空中に、鉛の弾丸が静止していた。  いや、止まったのではない。ボクが纏う『神威』――圧倒的な魔力の密度に阻まれ、物理的な運動エネルギーを失ったのだ。


 摩擦熱で赤く灼けた弾丸が、空中でジジジ……と悲鳴を上げるように震えている。  それだけの運動エネルギーが、ボクの指先ひとつに触れることすらできずに殺されているのだ。


「う、嘘だろ……!? アタシの『バッファロー・キラー』だぞ!?」 「質量、速度、威力。……すべてにおいて『軽い』な」


 ボクは指先を軽く弾く(デコピン)。  それだけで、空中の弾丸がアニーに向かって弾き返された。


「ひっ!?」


 ドシュッ!  弾丸がアニーのテンガロンハットを吹き飛ばし、足元の地面を抉る。


「あ、あぁ……」


 アニーが腰を抜かして後ずさる。  ボクは音もなく地面を滑り、彼女の眼前に立った。  見下ろす視線。  今のボクにとって、彼女は敵ですらない。ただの『躾(しつけ)が必要な駄犬』だ。


「な、なんなんだよアンタ……! メイトバリュー測定不能って、バグじゃなかったのかよ!?」 「システムごときの尺度で、ボクを測れると思うな」


 ボクはアニーの顎を掴み、無理やり上を向かせた。  震える瞳と視線が合う。


「ひ、ヒィッ……!」 「いいか、よく聞け。ボクの詩織を傷つけた罪は万死に値する。……だが」


 ボクはチラリと、背後で倒れている詩織を見た。  彼女は痛みに耐えながらも、必死にドローンカメラを操作し、この状況を撮影し続けている。  プロだ。あんな状態になっても、ボクを『魅せる』ことを優先している。


(……ここでこいつを殺せば、配信(ばんぐみ)としてはバッドエンドか)


 ボクは溜息をつき、アニーの顎を離した。


「殺す価値もない。……失せろ」 「ッ!?」


「三秒やる。その間にボクの視界から消えろ。さもなくば――その四肢をもぎ取って、ゴブリンの餌にするぞ」


 ボクが殺気を膨れ上がらせた、その瞬間。


「お、覚えてろよおおおッ!!」


 アニーは懐から何かを取り出し、地面に叩きつけた。  ボンッ! と紫色の煙が爆発する。ダンジョン脱出用の『煙玉(エスケープ・ボム)』か。


「次は負けないからな! 絶対にアンタより『イイ女』になって、リベンジしてやるんだからーッ!!」


 煙の向こうから、負け惜しみ全開の捨て台詞が響く。  バキバキと枝をへし折り、泥を跳ね上げながら全力で逃走する気配が遠ざかっていく。その必死さは、ある意味で獣じみていた。


「……ふん。口だけは達者な奴だ」


 敵の反応が完全に消えたことを確認し、ボクは大きく息を吐いた。


 プシュゥ……。


 全身から力が抜けていく。  銀色の髪が黒に戻り、エルフの耳が丸くなる。  激昂状態(ラース・モード)の解除。同時に、強烈な脱力感が襲ってきた。


「くっ……」


 膝から崩れ落ちそうになったボクを、柔らかい感触が支えた。


「姫奈ちゃん!」 「……詩織、か」


 支えてくれたのは、肩を血で染めた詩織だった。  顔面は蒼白だ。立っているだけでも辛いはずなのに。


「バカ、無理するな……! 撃たれたんだぞ!?」 「姫奈ちゃんこそ……あんな無理な変身をして……」


 詩織は痛む肩を庇いながらも、ボクの顔を覗き込み、安堵の涙を浮かべていた。


「よかった……姫奈ちゃんが無事で……」 「……っ」


 その言葉に、胸が締め付けられる。  自分が撃たれたことよりも、ボクの無事を喜んでいる。この愚直なまでの献身。


「ごめん。……ボクがついていながら」 「謝らないでください。……ほら、カメラ。回ってますよ」


 詩織が指差した先。ドローンカメラはまだ浮遊していた。  コメント欄は、先ほどの圧倒的な勝利と、今のボクたちの姿に狂喜乱舞している。


『アニー撃退きたあああ!』 『逃したけど完全勝利!』 『てか、マネージャーちゃん大丈夫か!?』 『血だらけで姫様を支えるとか……泣ける』 『尊い……これが主従の絆か』


 ボクはカメラに向き直ると、意識して『アイドル』の顔を作るのではなく――ありのままの表情で告げた。


「……今日はここまでだ。最高の映像(え)は撮れただろ? ……これからは、ボクのプライベート(治療)の時間だ」


 プツン。  ボクは独断で配信を切った。  同接数がどうとか、もうどうでもいい。今は一秒でも早く、詩織の手当てをしなくては。


「帰ろう、詩織。……とびきり上等のポーションがあるんだ」 「ふふ、はい……。お願いします、姫様(マスター)」


 詩織がボクの首に腕を回し、その指先でボクの襟元をギュッと掴んでくる。  その温もりと血の匂いを守るように、ボクは彼女を抱き上げ(お姫様抱っこし)、出口へと歩き出した。


 こうして、ボクたちの波乱に満ちた『深層アタック』配信は幕を閉じた。  だが、これはまだ始まりに過ぎない。  SS級の力を見せつけたボクの元には、これからも多くの『試練(ライバル)』が訪れることになるだろう。  ……まあ、返り討ちにするだけだがな。

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2026年1月15日 07:05
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姫騎士からは逃げられない ~S級アイドル声優は、性的な視線を糧に無双する~ 石橋凛 @Tialys

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