第10話 女神レーシャ、ついに始末書を書く
天界は、
静まり返っていた。
普段なら、
魂の転送音と
報告の声で
満ちている。
だが、
今日は違う。
中央神殿の
最奥。
巨大な机の前に、
女神レーシャは
正座していた。
「……」
その前には、
山のような紙。
始末書。
一枚ではない。
束だ。
「……ここまで、
溜まるとは」
上座には、
最上位女神
クレアティス。
その左右に、
ミレイシア、
フィオネア、
サフィーネ。
全員、
無言。
圧が、
重い。
「レーシャ」
クレアティスの声は、
静かだが
逃げ場がない。
「はい……」
「あなたの担当案件、
直近十件」
「はい……」
「規定逸脱、
七件」
「……」
「世界干渉、
三件」
「……はい」
サフィーネが、
腕を組む。
「現代に魔法残留」
「滅亡世界に
幼女投入」
「能力過剰付与」
一つ一つ、
思い当たる。
レーシャは、
俯いた。
「……でも」
その声は、
小さい。
「全部、
悪くなった
わけじゃ……」
フィオネアが、
穏やかに言う。
「結果が
良好な案件も
あります」
「……」
「だからこそ、
問題なのです」
ミレイシアが
続けた。
「偶然に
頼る采配は、
女神の仕事では
ありません」
レーシャは、
唇を噛む。
「……ごめんなさい」
その一言は、
素直だった。
クレアティスは、
少しだけ
目を細める。
「レーシャ。
あなたは、
魂を大切にしている」
「……はい」
「だが、
世界の均衡も
同じくらい
大切です」
「……」
「よって」
一拍置く。
「本日より、
再教育期間とします」
レーシャの顔が、
青ざめる。
「……え?」
「実務停止、
一時解除付き」
「始末書、
全件提出」
サフィーネが、
紙の山を
押し出した。
「期限、
三日」
「み、
三日!?」
「女神にとって、
短くはない」
レーシャは、
震えながら
紙を抱える。
「……書きます」
「ちゃんと……
書きます」
その姿に、
ユーファは
小さく息を吐いた。
――――――
天界の一室。
レーシャは、
机に向かっていた。
羽根ペンを握り、
文字を書く。
「……第十二号案件。
確認不足により……」
文字は、
歪んでいる。
「……魂が
幸せになったから、
いいかな、
って……」
ペンを止め、
天井を見る。
「……だめだよね」
思い出す。
笑った転生者。
救われた世界。
「……でも」
彼女は、
また書く。
「規定を
軽視したことを
反省し……」
夜が、
更ける。
それでも、
手は止まらない。
――――――
三日後。
始末書は、
提出された。
分厚い。
だが、
全て
書かれている。
サフィーネが、
目を通し、
頷いた。
「……反省文としては、
合格です」
「……!」
レーシャの目が、
潤む。
クレアティスは、
静かに言う。
「再配置します」
「……はい」
「補助官として、
ユーファの下で
学びなさい」
ユーファが、
少し驚く。
「……よろしいのですか?」
「えへへ……
よろしく
お願いします!」
レーシャは、
深く頭を下げた。
「……ちゃんと、
確認します」
「今度こそ」
天界は、
また動き出す。
魂は、
戻り。
女神は、
選ぶ。
その中で、
レーシャは
一歩遅れて
歩き始めた。
慎重に。
だが、
優しさは
そのままに。
「……次は、
間違えない」
その呟きは、
静かに
天界に溶けた。
だが――
操作盤の前で、
レーシャは
一瞬だけ
手を止める。
「……これ、
チェック、
したよね?」
ユーファは、
無言で
画面を指差した。
「……はい!」
物語は、
終わる。
だが、
魂の循環は
続いていく。
--続く・・かもしれない
女神の仕事は間違えることですか?――いいえ、たぶん違います 塩塚 和人 @shiotsuka_kazuto123
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