第9話 転生先が、すでに滅びた世界でした


天界の時空管理室では、

珍しく時計の針が

逆向きに回っていた。


「……時間軸、

不安定ですね」


女神ユーファが、

慎重に画面を確認する。


「次の魂、

行き先は

異世界エリオス」


レーシャが、

軽い調子で言った。


「穏やかな世界で、

のんびり第二の人生!」


「……レーシャ」


「はい?」


「この世界、

年代設定を

確認しましたか?」


「え?

平和な――」


ユーファは、

静かに拡大表示をした。


画面には、

灰色の大陸。


文明レベル、

崩壊。


人口、

極少。


「……え?」


レーシャの笑顔が、

固まる。


「百年前に、

大規模魔力災害。

文明、滅亡」


「……」


だが、

すでに転送準備は

進んでいた。


「時代設定が、

一世紀……

ずれています」


「そ、

そんな……」


光が集束し、

魂は

落ちていった。


――――――


少女は、

冷たい風で

目を覚ました。


空は、

鈍色。


太陽は、

薄くしか

光を放っていない。


「……ここ、

どこ?」


身体は、

幼い。


十歳前後の、

少女の姿。


名前は、

ミア。


前世の記憶は、

はっきりしている。


家族。

学校。

そして、

事故。


「……転生、

したんだ」


立ち上がり、

周囲を見る。


崩れた石壁。

折れた塔。

草に覆われた街道。


「……町、

だったのかな」


人の気配は、

ない。


風が吹くたび、

砂埃が舞う。


「……誰も、

いない」


恐怖が、

胸を締め付ける。


「……一人?」


涙が、

滲みかけた。


だが、

ミアは

拳を握る。


「……泣いても、

変わらない」


彼女は、

歩き出した。


瓦礫の間を、

慎重に。


やがて、

小さな音が

聞こえる。


……カサ。


「……?」


振り向くと、

影。


痩せた、

子ども。


「……人?」


近づくと、

同じ年頃の

少年だった。


「……生きてる人」


言葉は、

通じた。


彼の名は、

ロウ。


「……町は?」


「……ない」


彼は、

首を振った。


「昔、

全部……

壊れた」


少しずつ、

生存者が

集まってくる。


老人。

子ども。

数えるほど。


「……世界は、

終わったんだ」


ミアは、

理解した。


だが――

終わりなら、

始めればいい。


「……畑、

作ろう」


最初は、

誰も信じなかった。


だが、

彼女は諦めない。


瓦礫を片付け、

土を耕す。


水脈を探し、

雨を集める。


「……できること、

やろう」


小さな手で、

未来を

掘り起こす。


時間が、

流れる。


一年。

三年。


緑が、

戻ってきた。


火が灯り、

笑い声が

増えた。


「……ミアは、

希望だ」


誰かが、

そう言った。


彼女は、

首を振る。


「みんなが、

頑張ったんだよ」


廃墟だった場所に、

小さな村が

生まれた。


文明は、

小さい。


だが、

確かに

生きている。


――天界。


「……報告です」


ユーファが、

静かに言う。


「対象者、

滅亡世界にて

文明再建、

進行中」


「えっ……」


レーシャが、

目を見開く。


「一人の少女が、

中心となり、

生存者を

導いています」


サフィーネが、

ゆっくりと

椅子から立つ。


「レーシャ」


「は、はい!」


「始末書、

百十枚です」


「まだ、

増えるんですか……」


だが、

ユーファは

続けた。


「天界評価、

未来創生因子。

極めて高」


サフィーネは、

言葉を失った。


天界には、

今日も魂が戻ってくる。


そしてまた、

女神レーシャは

時間軸を見つめる。


「……百年くらい、

誤差ですよね」


誰も、

同意しなかった。


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