手抜き小説と言わないで

志草ねな

手抜き小説と言わないで

 オーロラの絨毯じゅうたん煌めく舞台、私は恋焦がれるだけのアルエット。大地はこんなにも暗く、希望の星は欠片かけらすらも見えない。いつかを夢見る瞳には、時の流れは映らない。誰かが私を見つけたならば、きっとあの空のジュリエットになれるはずなのに。命尽きるその時が、一歩一歩と歩み寄るのも気づかないまま。


 ◇◇◇


大羽たいぱ先生、今回の作品もとっても素敵です!」

「短いのに、とても美しくて切ない物語ですね」

 大羽たいぱ十四じゅうしの新しい作品には、ファンからの絶賛の応援コメントがずらりと並ぶ。


 大羽十四。百四十字という短い字数の小説を多数投稿している、小説投稿サイト『よみかき』の人気作家の一人だ。


 もともと長い文章が書けないことを気にして「短い小説ばっかりじゃコンテストに応募できないし、人気だって出ねえだろうなあ……」と自信を無くしていたのだが、あえて「短い作品専門」にしてみることでインパクトを出そうと思いつく。

 細々と続けた努力が実を結び、今ではフォロワーが五百人を超えるほどになった。


 長々と書いているだけの、中身の無いバカな小説なんかに負けるもんか。

 タイパ重視の昨今、短くてなんか良さげな小説を量産する。これこそが、新しい小説の形なんだ。

 そんな考えを抱きながら、今日も大羽は新たなコメントを楽しみにしていた。


 だが、一件の応援コメントによって、大羽の心は大いに乱されることとなる。


 @juubakonosumi すごい手抜きですね!

          私だったら絶対書けません!


 突然「手抜き」と言われて、大羽はショックを受けた。

 確かに、自分の作品は短いから、簡単に書けそうな印象を持たれるかもしれない。

 だからといって、こんな意地の悪いコメントをしてくる人間の気が知れない。腹が立ってコメントを削除した。


 削除した後で、「消さずに運営に通報した方がよかったんじゃないか」と後悔した。

 だがまあ、嫌なコメントは消えたのだから良いとしよう。そう思っていたのだが……。


 翌日。大羽はまた新たに小説を投稿した。


 ◇◇◇


 白銀の中を、スワンが舞い踊る。極寒の舞台に観客は一人たりともいないが、そんなことは構わない。私はただ、踊りたいから踊る、それだけ。孤独なポラリスが声をかけようと、私には関係の無いこと。世界は、この我が儘なバレリーナを中心に回り続ける。至高の舞台は、彼女が飽きなければ終わらないさ。


 ◇◇◇


 この日は朝から晩まで仕事が忙しかったので、大羽は全くコメントをチェックできなかった。

 やっとのことで家に帰り、コメントを確認したところで、またも@juubakonosumiからコメントが来ていることに気づいた。

 おまけに今回はレビューコメントなので、新着おすすめレビューのところに出て多くの人に読まれかねない。


 大羽の目に飛び込んできたのは、「これ、手抜き小説です!」というひとこと紹介。

「こいつ、またいいかげんなこと書きやがって! もう許せねえ、運営に通報してやる!」

 そう思った大羽だったが、他のひとこと紹介が目に入ったことで手が止まった。


「すごい手抜きだ!」

「読んでみて、手抜きの小説」

「手を抜いても小説って書けるんですね」


 それらは、今まで自分の作品を絶賛してくれたフォロワーたちからのレビューコメントだった。


 どうしていきなり、こんな手のひら返しをするのか。

 わからなかった。レビューの内容を見たら何かわかるのかもしれないが、怖くて見られなかった。


 ひょっとしたら、フォロワーたちももともと、大羽の作品は大したことがないと思っていたのではないだろうか。

 そんな考えが頭をよぎる。


 そもそも大羽のフォロワーというのは、多くが大羽の「フォロワー増加作戦」によって彼をフォローした者たちである。

 要するに、大羽は短めの小説をサッと読んで「短い中に感動が詰まっています!」とか何とか適当なレビューを書くと同時に相手をフォローする、ということを繰り返してきた。

 そうして、「相互フォローしなくちゃ」と思った相手をフォロワーとして獲得してきたのだ。


 向こうは向こうで、「大羽の作品は短くてすぐ読めるし、お義理で一応読んでおくか」「正直意味はわからないけど、素敵ですってコメントしておけばいいだろう」と思っていたに違いない。


「バカにしやがって! お前らなんて、どこにでもあるような無個性小説か、書いた本人が満足しているだけのクソ小説しか書けないくせに!」


 大羽は、レビューを書いた全てのフォロワーをブロックした。

 自分の小説を理解できない人間とは、もう関わりたくなかった。


 ◇◇◇


 @juubakonosumi ★★★Excellent!!!

          これ、手抜き小説です!


          一見すると、わずか百四十字と短い、普通の小説。

          でもこの小説は、一味違うのです。


          なんと「て」と読む字、及び「てへんの漢字」を一切

          使っていないのです!


          きっと、書くのはかなり大変なのでしょうね。

          それなのに、「て」を抜いていることを全く強調しない

          作者の謙虚さ。

          私では到底できません。脱帽です。


          新たな時代を感じさせる小説。

          ぜひあなたも読んでみてください!


(了)

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