「手」でする楽しいことといったら……オ○●ーに決まってるよね?(カクヨムコン11お題フェス「手」)

D野佐浦錠

痴は力なり

 「Othelloオセローに、決まってるよね♡ 『手』でする楽しいことといえば♡」

 白い水着姿の人気配信者、如月きさらぎエキスはそう言って挑発的な笑みを浮かべた。



       〇●

       ●〇



 一瞬、空中に石が浮いているのかと思った。違う。無色透明のガラスでできたテーブルに直接、石が置かれているのだ。


「……さあ座って。楽しみましょう? 眼鏡がステキね、カスミちゃん♡」


 私の名前は泡沫うたかたカスミ。眼鏡は私のアイデンティティだ。知性派眼鏡女子で売っているのが私。今日の服装は黒のワンピース。


 テーブルと同じく無色透明の椅子に座った。


 幻想的、というか悪趣味だ。

 私たちはコラボ企画で、これからオセロ対決をする。エロ売りで知られる如月エキスのスタジオに来てしまったけど、白い紐ビキニみたいな水着の彼女、ちょっと限界ギリギリって感じの露出だ。女性の私でも目のやり場に困ってしまう。


 流石にスタイルは抜群だし、巨乳。それに顔ファンが大量に付くくらいの超美人。わ、私にだって顔ファンぐらいいるけれど。でも少なくとも、胸の大きさでは大敗してる。……そんなところで競うつもりはないから良いの。


 机を挟んだ私たちの上下左右、計12基のカメラがこの様子を撮影していて、視聴者はリアルタイムで好きなカメラの映像を選んで視聴することができる仕組みになっているという。足元から下半身を舐めるように見上げられるアングルのカメラもあって、どきっとしてしまう。


「んふ♡ 今日も皆の視線が激しいワ♡ さてさて今回、ルールはいたって普通のオセロなんだけど……ま、本当は『リバーシ』の方が適切かもねん……特殊ルールが一つ。この勝負、♡ あなたの目で見て、勝ったと思う方に票を入れてねっ」


「……意味がわからない、のですけど、如月さん。オセロの勝敗なんて投票するまでもなく一目瞭然じゃない」


 と私は当然の疑問をぶつける。


「まあま♡ 配信の時間切れとか、イカサマ対策とかなのよ。あとオセロでは低確率で引き分けも起きる。そういうややこしい場合に全部対応できるよう、もう投票にしちゃおう、ってワケ」


「……あなたのファンが全員あなたに投票したら、最初から私に勝ち目はないんじゃないかしら」

 

 ちょっと悔しいけど、フォロワー数では如月さんの方が私より格上だった。


「大丈夫よ~。カスミちゃんの言う通り、オセロの勝敗なんて一目瞭然。明らかに負けてる方に投票したりしないわ♡ その辺りはファンの皆、誠実だし。カスミちゃんのファンだってそうでしょ?」


「もちろん、そうよ」


 私のファンは、頭脳戦を期待してくれているはず。これまでも私は、人狼ゲームとか、謎解きの企画で人気を集めてきたんだ。


 だから、このコラボ企画も負けるわけにはいかない。こんなキャラの如月エキスに頭脳戦で負けたとなっては、泡沫カスミの沽券にかかわる。


「じゃ、早速始めましょう♡ 勝負の最中はコメントとか見られないからね。視聴者からのアドバイスとかあると、ズルいから」


「良いわ。如月さん、残念だけど、天地が引っくり返ってもあなたは私に勝てない」


「おっ♡ おっおっ♡ 痺れるゥ~♡ 絶好のフラグを立ててくれちゃって~」


 身をよじって身体をくねらせる如月さん。恍惚の表情なんか浮かべている。

 

 大丈夫、私は負けない。



 黒の石を手に取り、一手目を打つ。


 如月さんもすぐに白の石で応じる。


 私は迷わない。

 私の眼鏡はスマートグラス――AI。オセロというゲームは数学的にほぼ解明されている。AIに従っていれば負けるはずがない。

 そう、イカサマ。だけど私は配信者としてもっと成り上がりたい。そのためにはどんな「手」だって使う。


 思った通り、如月さんの打つ手は凡庸な手ばかりだった。

 私の全ての手は、AIによって約束された勝利へと向かうもの。いわば、全ての手が神の一手。負ける道理がない。


「流石カスミちゃん、強いわァン♡」

 

 なんて言って、如月さんは一手ごとに悩ましげな表情を見せたりしている。

 私が彼女の石を引っくり返すたび、「ああっ、下乳したちちがこぼれちゃうわン♡」などとわざとらしいエロ売りも交えて。そういうのは勝手にすれば良い。でも盤面はどう見たって黒が優勢だ。


「如月さん、そんな風に視聴者をエロで釣ったところで、どうするつもりなの?」


「うっふ♡ 私もあなたと同じよ。勝つためには手段を選ばない。持っている武器は全部使うわ、それだけ」


 ……負け惜しみを。


 30分くらいして、全てのマスが埋まった。あっさりと、対局終了だ。

 明らかに私の圧勝だった。盤上には黒い石だらけだ。


「投票なんてする意味あるのかしら? どう見ても私の勝ちじゃない」


「……ふ、ふふふ、『』カスミちゃんの勝ち……本当にそうかな~?」


「……?」


「投票結果発表~!」


 プロジェクターで壁に配信中の映像が投影される。

 リアルタイムの投票結果だ。


 1万人近く集まった視聴者の投票結果は――

 

「――は、はああっ!?」


 私は叫んでいた。

 

「あなた! やっぱり最初からファンを抱き込んで!」


「違うんだな~カスミちゃん。良く考えてごらんなさい♡ 私は『』って視聴者の皆に言ったのよ。そしてこのセット。何かに気付かない?」


 このセット。悪趣味な、無色透明のテーブルと椅子。それに上下左右の全12基、視聴者が好きなものを選んで見られるカメラ。

 

 ――


 ……まさか。


「そう、のよ♡」


 ――


 そんな屁理屈みたいな――でも「あなたの目で見て」ってフレーズで、視聴者は気が付いたんだ。如月エキスの仕掛けたトリック、その意図に。彼女のファンはもちろん、! 私だけが、このトリックに気が付いていなかった!


 「」も「」も――上からのアングルでは見られない。

 「」は……オセロをする際は自然に盤面を見下ろす形になるから、下から見上げるカメラじゃないと

 如月さんは、視聴者を巧妙に下から見上げるカメラを選ぶように誘導していたんだ。


「はい、というわけで『』ってワケ♡ フラグも回収ね♡ だから言ったでしょう? このゲームの名前、、って。神の一手ならぬ神の0手目、炸裂ゥ~」



 完敗、だった。


 如月さんのことも、視聴者のことも見くびっていた。

 私のおごりが招いた必然の敗北だ。


「如月さん……」


「泣かないで、カスミちゃん。あなたもステキだったわよ」


「いいえ、お見それしました。……私を弟子にしてくださいっ、お姉様!」


「あら♡ あらあらあら♡ あら~? それは大・大・大歓迎よォォ~♡」


 お姉様が、私の手をとって優しく包み込んだ。


 その後、お姉様と私のユニットがブレイクするのは、別の話……なのだった♡(了)



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 もし面白かったなら、あなたの「手」で「♡」と「☆」を押してくれると嬉しいわ♡


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「手」でする楽しいことといったら……オ○●ーに決まってるよね?(カクヨムコン11お題フェス「手」) D野佐浦錠 @dinosaur_joe

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