第4話 オヤツを差し出す手

 人に飼われた経験の無い野犬は、なかなか心を開かなかった。

 撫でることはできず、首輪やリードを着けることもできない。

 散歩に連れ出すなんて夢のまた夢という感じだった。

 このままでは、譲渡見込み無しとされて、殺処分されるかもしれない。

 僕はなんとかして黒犬の心を開こうと、仕事休みの日には会いに行き、オヤツをあげた。


「オヤツ持ってきたよ、食べにおいで」


 ケージの前にしゃがみ、声のトーンを普段よりも下げて話しかけながら、格子の間からオヤツを差し出す。

 黒犬は少し躊躇った後、そーっと近づき、パクリと咥えて後ずさる。


「私たちの手からはオヤツを食べないのに、何故かあなたからは食べますね」


 保健所職員が、その様子を眺めて言う。

 黒犬は「人間の手」を怖がる。

 職員たちは毎日餌や水をあげているのに、オヤツを差し出しても黒犬は怯えて近寄らないらしい。

 でも、僕は初対面からオヤツを受け取ってもらえた。

 その違いは何だろう?


 オヤツは受け取ってくれるけど、手だけ差し出すとビクッとして後ずさる。

 この子が懐く日はくるのだろうか?

 保健所に通いながら、僕は焦りを感じていた。

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