第17話「夕焼けに舞うユニコーン」

航は、ユニコーンのたてがみに沿って流れる炎の装飾を、

黙々と彫り進めながら言った。


「だから秀樹さんの部隊、あんなに仲がいいんですね。さすがです」


誠おじいさんは、少しだけ手を止める。


「さっきから言っとるじゃろ。夜勤明けじゃったからだ」


そう言って、照れたように視線を逸らし、言葉を濁す。


「……カエルッパって、おばあちゃんも作ってたね・・・」


「ああ。まあ――あいつの作ったのは、かなり個性的だったがな」


窓辺に飾られた響乃おばあちゃんの写真は、

相変わらず、何も言わずに静かに微笑んでいる。


木くずの香りが、やわらかく部屋に舞う。

その中で、時間だけがゆっくりと流れていった。


「さて、今日はここまでにするか。

 航くん、また響の手伝いをしてくれると助かるな」


「ええ、そうします。――乗りかかった船ですから」


航はそう言って、少し得意げに、ケースの中の羽黒を指さした。


「航、今日はありがとう。すごく助かった」


「それじゃあ、またな響」


航は村上の家の玄関を出た。

自転車にまたがったとき、


――なぜ、自分は

秀樹さんの部隊が仲がよかったことを

知っているのだろう。


初めて聞く話のはずなのに、

そう思うこと自体が、不思議だった。


「……まあ、記憶なんて、

いい加減なものか」


そうつぶやいて、航は夕ぐれの坂道を下った。

その胸の奥に、理由のわからない静けさを抱えたまま。


その頃、彫ったユニコーンのかたずけをしていた響は


「おじいちゃんありがとう、こんな長い時間、体は大丈夫だったの」


「ああ久しぶりにとても気分がいい、いい時間だった」


ふと、ユニコーンの下絵に目が行きちょっとだけ寂しい目をして


「……じつはねおじいちゃん、自分で書いたつもりなんだけど

 この絵、どこかで見たことがある気がするんだよね」


誠は一瞬だけ絵に目を落とし、

それから響の方を見て、ふっと笑った。


「そりゃあ、そう感じることもあるさ」


響は不安そうに眉を寄せる。


「……真似、なのかな」


誠は首を振った。


「同じ形を、同じつもりでなぞれば真似だ。

 でもな――」


誠はゆっくりと言葉を選ぶ。


「どうしてそうなったかを考えて、

 自分の手で描き直したなら、

 それはもう人のものじゃない」


響は黙って続きを待つ。


「見たものは、忘れなくていい。

 大事なのは、そこから何を受け取ったかだ」


誠は絵にもう一度視線を戻し、静かに言った。


「ちゃんと噛み砕いて、自分の中に落としたなら、

 それは血肉になる」


少し間を置いて、付け足すように。


「そのユニコーンとかいうのは、もう響のだよ」


響はうなずき、その言葉を胸に大切にしまう


ほんの少しだけ、やさしい表情になったように見えた。


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この小さな花があの海へ届きますように 富田 来蔵 @kuruzo

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