終章:星に釣竿
夜。海上集落は、いつもより静かだった。
波は穏やかだが、月明かりに照らされた水面は、どこか冷たく、鋭く光っている。
船の上に腰を下ろしたまま、俺は深く息をついた。
今日も、生き延びただけだ――そう思ったはずなのに、胸は妙に落ち着かない。
空を見上げる。星は、いつも通り、静かに輝いている。
けれど、目に映るその光は、どこか、監視されているような気配を帯びていた。
海を敵に定めた俺の感覚が、そう告げている。
船のそばで管理人が立ち止まり、穏やかな声をかける。
「……何を考えているんですか?」
問いは、形式だけ。答える必要はない。俺の視線は、星の光に向かっていた。
協会の建物も、遠くに点のように見える。
いつも通りに存在しているけれど、やはり違和感がある。
あの建物の中で、嵐や星喰らいに関する秘密が、静かに進行しているのだろう。
俺の手元には、五つのくぼみのある釣り竿。
ひとつだけ赤く光っているくぼみが、胸の奥を熱くする。
――すでに、ゴーダッシュに認められた。
その力を借りることで、俺は次の戦いに踏み出すことができる。
ふと、海に目を向ける。
波は静かだが、いつか嵐が再び訪れることを、俺は知っている。
だが、恐怖はない。力を持つ者として、次は自分から挑む番だ。
空を仰ぐ。
星は、今日も変わらずそこにある。
けれど――
もう、手の届かない存在ではない。
敵として、倒すべき相手として、確かに存在している。
そして、微かに――
視界の端で、空の奥深くに、漂う影を感じた。
それは、まるで意識の塊のようで、目には見えないのに確かに存在する。
星喰らいの、気配。
「……海を敵にすると決めた。
なら、次は……星だ」
言葉は小さく、波の音に溶けて消えた。
だが、心の中では決意が燃えている。
俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。
夜空の星は、静かに輝き続ける。
そして俺は、その下で立ち上がる――次の釣り糸を投げるために。
釣ラネバナラヌ なきぱま @Nakipama88
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます