第3話

リリアが俺の屋敷に来てから三日が経った。


医師の治療により、彼女の身体は徐々に回復している。栄養のある食事と清潔な環境――それだけで、人間はこれほど変わるものかと驚くほどだ。


「アレクシス様、準備が整いました」


執事のセバスチャンが報告する。


「よし。リリアを連れてこい」


今日は、リリアの正確な魔力量を測定する日だ。


屋敷の地下には、魔法実験用の広い空間がある。壁には魔力を吸収する特殊な石が埋め込まれ、どんな魔法を使っても建物が崩壊しない設計だ。


その中央に、巨大な水晶球が設置されている。魔力測定器――魔導師の才能を数値化する装置だ。


「失礼します」


扉が開き、リリアが入ってくる。


三日前とは別人のようだ。汚れた髪は洗われ、艶やかな茶色に。ボロ布ではなく、シンプルだが清潔な服を着ている。顔の傷も治療魔法で消え、整った顔立ちが露わになった。


「おはようございます、アレクシス様」


「ああ、よく来た。調子はどうだ?」


「はい……すごく、元気です」


リリアは照れくさそうに微笑む。まだ緊張しているが、以前のような怯えた様子はない。


「それは良い。では早速、君の魔力を正確に測定しよう」


俺は水晶球の前に立つ。


「これは魔力測定器だ。この球に手を当てると、魔力量が数値化される。通常の人間は10以下、才能ある魔導師でも50程度。宮廷魔導師クラスで100だ」


「100……」


リリアは驚いたように目を見開く。


「ちなみに俺は――」


俺は水晶球に手を当てる。球が青白く光り、数字が浮かび上がる。


『320』


「320だ。王国でも上位に入る数値だろう」


実際、転生前の知識と三年間の訓練で、俺はかなりの実力を身につけた。だが、物理的な破壊力では限界がある。


「さあ、君の番だ」


リリアは緊張した面持ちで水晶球に近づく。


「怖がるな。ただ手を当てるだけだ」


「は、はい……」


彼女は震える手を、ゆっくりと水晶球に触れさせる。


瞬間――


部屋全体が眩い光に包まれた。


「なっ――!」


水晶球が激しく発光し、轟音が響く。測定器の魔法陣が次々と展開され、数値を表示しようとするが――追いつかない。


数字が次々と跳ね上がる。


『500』『1000』『2000』『5000』――


「馬鹿な……!」


執事が絶句する。


数値はまだ上昇を続ける。


『10000』『15000』『20000』――


「止まらない……!」


ついに水晶球が限界に達し、ひび割れ始める。


「リリア、手を離せ!」


「は、はい!」


リリアが手を離すと、光が収まる。だが、水晶球は完全に砕け散り、破片が床に散らばった。


沈黙。


誰もが呆然としている。


「……測定器が、壊れた?」


執事が信じられないという声を出す。


俺は冷静に分析する。


「いや、壊れたのではない。測定器の上限を超えたんだ」


この測定器の上限は30000。つまり、リリアの魔力量は30000を超えている。


「規格外どころの話じゃないな」


俺は笑う。


これは予想以上だ。いや、予想を遥かに超えている。この魔力量は、もはや人間の領域ではない。伝説の大魔導師や、魔王クラスの数値だ。


「ご、ごめんなさい……壊しちゃって……」


リリアが泣きそうな顔で謝る。


「謝る必要はない。むしろ祝うべきだ」


俺は彼女の肩に手を置く。


「リリア、君は想像を絶する才能を持っている。この魔力量なら、訓練次第で国一つを相手にできる」


「く、国……?」


「ああ。君は『戦略兵器』だ」


俺は彼女の目を見る。


「だが、今の君はその力を制御できない。まずは基礎から訓練する。魔力の制御、魔法陣の構築、属性魔法の使い分け――全てを叩き込む」


リリアは真剣な表情で頷く。


「はい。頑張ります」


「よし。では早速始めよう」


俺は実験場の中央に魔法陣を描く。


「まずは魔力の制御だ。君の魔力は常に溢れ出している。それを意識的に抑え、必要な時だけ放出する――それが第一歩だ」


「どうすれば……?」


「簡単だ。呼吸を整え、体内の魔力の流れを感じろ。そして、それを『閉じる』イメージを持て」


リリアは目を閉じ、集中する。


俺は彼女の魔力の流れを観察する。最初は乱れていた魔力が、徐々に落ち着き始める。


「いいぞ。そのままだ」


数分後、リリアの周囲に漂っていた魔力の波動が消えた。


「……できた?」


「ああ。完璧だ」


リリアは目を開け、驚いた顔をする。


「本当に……?」


「本当だ。初日でここまでできるとは、やはり天才だな」


俺は満足げに頷く。


これほどの才能を持ちながら、教育を受けられなかった――それがどれほどの損失か。だが、今は違う。この才能は全て、俺のものだ。


「次は魔法の基礎を教える。火属性から始めよう」


俺は手のひらに小さな炎を灯す。


「魔法とは、魔力を特定の形に変換する技術だ。火属性なら、魔力を『熱』に変える。イメージが重要だ」


リリアは真剣に見つめる。


「やってみろ」


「は、はい……」


彼女は手のひらを前に出し、集中する。


瞬間――


轟音と共に、巨大な火柱が噴き上がった。


「うわっ!」


俺は咄嗟に防御魔法を展開する。火柱は天井まで届き、魔力吸収の石がフル稼働する。


「り、リリア! イメージを小さくしろ!」


「は、はい!」


リリアが集中を解くと、火柱が消える。


「……出力が強すぎるな」


俺は苦笑する。


「悪くない。初めて火魔法を使ったにしては上出来だ。ただし、制御が必要だ。もう一度、今度は小さくイメージしろ」


リリアは深呼吸し、再び集中する。


今度は、手のひらに小さな炎が灯った。


「できた……!」


リリアは嬉しそうに笑う。


「よくやった。この調子で他の属性も練習しよう」


その後、水、風、土、光、闇――全ての属性魔法を試す。リリアは全てを難なく使いこなした。


「信じられない……」


執事が呟く。


「通常、一つの属性を習得するのに数ヶ月かかります。それを一日で全て……」


「これがリリアの才能だ」


俺は彼女を見る。


疲れた様子もなく、目を輝かせている。まるで魔法が楽しくて仕方ないという顔だ。


「アレクシス様、もっと教えてください!」


「ふむ、やる気は十分だな」


俺は笑う。


「よし。明日からは実戦訓練も加える。座学だけでは意味がない」


「実戦……!」


リリアは緊張と期待が入り混じった表情をする。


「君は俺の『剣』だ。剣は戦ってこそ意味がある」


俺は彼女の頭に手を置く。


「安心しろ。俺が全てを教える。君を、誰にも負けない最強の魔導師に育て上げる」


リリアは真っ直ぐに俺を見つめ、力強く頷いた。


「はい。私、絶対に強くなります。アレクシス様のために」


その目には、絶対的な信頼と忠誠の光があった。


俺は満足げに笑う。


「では、今日はここまでだ。夕食を取って休め。明日からが本番だ」


「はい!」


リリアが部屋を出ていく。


俺は一人、実験場に残る。


「規格外の才能、絶対的な忠誠心、そして成長の速度――完璧だ」


世界支配への第一歩は、予想以上に順調だ。


このまま彼女を育て上げれば、俺の野望は確実に現実となる。


「さあ、世界よ。震えて待っていろ」


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無能と蔑まれた貧民の少女を拾ったら、規格外すぎて世界征服が容易になった件 ~転生悪役貴族の野望録~ kuni @trainweek005050

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